ノルウェーでは「ありえない」スルメイカ休漁騒動で露呈した日本漁業のずさんすぎる"資源管理の実態"

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さらに問題は、小型イカ釣り船向けの枠は設定されていたものの、県別や漁船別の「個別割当」になっていなかったのです。それで早い者勝ちの争奪戦となりました。南から北へ回遊するスルメイカ漁で、先に漁場に到達する南の漁船が枠を使い切ってしまい、青森など北の漁船が操業する頃には枠が残っていませんでした。

北の漁業者からすれば、目の前にイカはいるのに獲れない。増枠されたと聞いても、自分たちには1トンも回ってこない。この不公平感が怒りとなって爆発したのです。

ノルウェーなどでは「ありえないこと」

漁期中の増枠や、枠を超えて漁獲してしまっていることなど日本で起きていることは、漁業を成長産業にしている国々からすれば「ありえないこと」です。しかしそのこと自体がほぼ知られていません。そこでノルウェーの漁業管理を参考に、取るべき対策を明記しましょう。

■漁獲枠配分は、資源の減少が著しい間は、小型イカ釣り船をはじめ沿岸の零細漁業を最優先する。そして資源量が回復したら大型漁船への配分を増やす。ノルウェーでのマダラ漁で実施。
■漁獲枠配分は、県別・漁業別・漁船別など個別割当制度を徹底する。個別割当は漁獲枠配分での常識。個別割当にしないと、早いもの勝ちとなり乱獲を招く。小さくても何でも獲ってしまう。
■24時間・リアルタイムで漁獲量を報告し、漁獲枠の消化状況がわかるようにする。ノルウェーでは30年以上前から実施されている。日本でも実施可能。

上記の3点が同じ問題を起こさないための対策となります。

この記事を書いている最中に、北海道では小型イカ釣り漁船が操業できるよう、資源量などの調査を目的に道内の漁業者に限って漁を許可する方針を示しました。こうやってあの手この手でまたゴールポストを動かしてしまえば、他の県でも同様の措置を求めることになるでしょう。そして獲りすぎてまた獲れなくなる。次に悪いのは海水温だとか、外国漁船だとか責任転嫁が始まる。この繰り返しをやめるべく、資源管理の重要性の正しい理解が広がる必要があります。

休漁のままとした水産庁の判断は将来のための正しい判断です。漁獲枠を増やすより、たとえ獲れない分の補償を行ってでも、来期に資源をつなげていったほうがいいのです。獲れなくて死活問題だといって、自ら死活問題を招いてはいけないのです。

片野 歩 Fisk Japan CEO/東京海洋大学 特任教授

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かたの・あゆむ / Ayumu Katano

東京海洋大学 特任教授。早稲田大学卒。Youtube「おさかな研究所」発信。2022年東洋経済オンラインでニューウェーブ賞受賞。2015年水産物の持続可能性(サスティナビリティー)を議論する国際会議シーフードサミットで日本人初の最優秀賞を政策提言(Advocacy)部門で受賞。長年北欧を主体とした水産物の買付業務に携わる。特に世界第2位の輸出国であるノルウェーには、20年以上毎年訪問を続けてきた。著書に『日本の水産資源管理』(慶應義塾大学出版会)、『日本の漁業が崩壊する本当の理由』他。

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