日本初「イスラエル式OJT」は障害者雇用を変えるか、カフェ全体が「職業訓練施設」、実戦で就労能力養う

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コーヒーを淹れる岩村さん(仮名)。笑顔で注文に応じていた(記者撮影)

プレオープンの日、大盛況の店内でコーヒーのドリップマシン前に立ち続けた岩村紀広さん(仮名、21歳)は、ADHD(注意欠如・多動症)を持つ。「緊張した」と話すが、笑顔で注文を次々とさばく姿は堂々としたものだった。

岩村さんは高校卒業後、「なんとなく自分は人と接しない仕事の方が良いだろう」とIT系の専門学校に進学。ただ、うまくいかずに中退し、就労移行支援の事業所に通った。事務系などのハローワークの求人票にも目を通したが、就職は決まらず、2年の利用期限を迎えた。

進路に迷っていたところ、グッドザグッドの開店を知り、9月に入所。主にホール業務の研修を受ける中で、「意外にも接客が向いていると気づいた」という。自分が淹れたコーヒーを「美味しい」と飲んでもらうことにやりがいを感じた。

「登らされているのでなく、自分で登っている感じがする」。岩村さんはグッドザグッドでの日々をそう評する。「できる作業」が増えていくのが面白いといい、「次はキッチン業務にも挑戦してみたい。さまざまな能力を身につけて、将来的には一般企業へと移りたい」と語る。

人手不足の救世主となるか

一定以上の規模を有する事業者は、法定の障害者雇用率を満たす義務を負う。現在は2.5%だが、26年度中に2.7%へと引き上げられる予定だ。その充足に寄与しつつ、戦力を補充できる。そんな人材を獲得できるとしたら、人手不足が叫ばれるサービス業にとっては魅力的だろう。

近年は雇用率を維持するため、サテライトオフィスや農園型の就労施設を活用する企業も増えている。本業とは無関係な仕事を任せることもあり、「経済活動への参加とは言えない」「雇用率を金で買っている」などと批判する声も上がる(詳しくはこちら)。

イスラエルと日本では、むろん社会的な風土が異なる。求められるサービスの質も違うだろう。どこまでSTGの手法が有効かは不透明だ。ただ、グッドザグッドが成功すれば、障害者と企業の双方にメリットをもたらすのは間違いない。

石川 陽一 東洋経済 記者

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いしかわ よういち / Yoichi Ishikawa

1994年生まれ、石川県七尾市出身。早稲田大学スポーツ科学部を卒業後、2017年に共同通信へ入社。事件や災害、原爆などを担当した後、2023年8月に東洋経済へ移籍。部品や工作機械、物流の各業界や障害者雇用を取材。著書に『いじめの聖域』(2022年文藝春秋刊)=第54回大宅壮一ノンフィクション賞候補、第12回日本ジャーナリスト協会賞など3賞。

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