「継ぐのは私じゃダメなの?」ーー。幼い頃の疑問を乗り越え4代目になった彼女、「ガッツマン」を武器に下請け依存を脱却した手腕
家業に戻った彼女を待っていたのは、残ってくれたスタッフの元気な挨拶と熱意だった。
「美奈子さん、うちの会社はすごい靴下があるんですよ!」
「すごい靴下」とは、父・亮滋さんが手掛ける靴下「ガッツマン」だ。入社当時、美奈子さんは会社が自社製品を販売していることさえ認識していなかった。
そこで、スタッフの勧めでガッツマンの口コミを見た。口コミには、お客様の「この靴下以外はもう履きません」や「なかなか破れないので、6年ぐらい履いている」など、強い思いが長文で綴られていた。
「お金をもらうわけでもないのに、これだけ熱量の高い思いを伝えてもらえる製品ってすごい。この靴下ってもう愛されてるんだなって思いました」
靴下の生産量が日本一を誇る奈良で数多くの靴下を生産し、他社にはないオリジナリティを追求している巽繊維工業所には、これまで培ってきた技術がある。
そこで美奈子さんは、自社製品を打ち出し、BtoC(顧客への直接取り引き)を強化する必要があると考えた。亮滋さんも「下請けは自分ではなかなかハンドリングができないと思っていました。その中で娘が帰ってきてくれて、販路を切り替えられないかと考えていました」と振り返る。
新しい挑戦で利益率が向上
美奈子さんは家業に戻ってから、「ベンチャー型事業承継」という後継者たちが集まる団体に所属していた。そのセミナーの一環として、クラウドファンディングサービスのMakuakeの担当者の話を聞いたり、実際にクラウドファンディングを成功させた後継者たちのトークセッションに参加した。
Makuake側から「自社製品で挑戦してみませんか?」と誘いを受けたが、美奈子さんは「うちみたいな小さな会社にはハードルが高いのでは」と悩んだ。だが、Makuakeの担当者から「地方産業だからこそ、クラウドファンディングを利用して成長につなげてほしい」と背中を押され、考え直した。
2019年にクラウドファンディングで5本指ソックス「ガッツマン」を一般向けに販売。「自衛隊員が愛用するほど頑丈な靴下」と言う売り文句が人目を惹き、SNSなどの影響で商品が広く認知された。
クラウドファンディングの購入者からも熱いコメントが寄せられた。「そういうお言葉を励みにしてモノづくりをして、ちゃんと評価をいただけるように頑張らなくてはいけないなって思います」と美奈子さんは力強く言った。



















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