【産業天気図・半導体】DRAM価格の歴史的低水準を受けリスク顕在化、通期で「曇り」

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半導体業界の07年度前半は「曇り」、後半も「曇り」とみている。
 前回(3月)の天気図では、「半導体動向は全体基調は強いが、米マイクロソフトの新OS(基本ソフト)「ウィンドウズ・ビスタ」の低調が長引き、07年度は「晴れ」どまりといったところか」としていたが、その後のDRAM価格下落が想定以上だった。利益水準自体は高位なのだが、DRAM価格下落以外にもリスク要因が散見され、手掛けている製品、製造装置次第では減益となる可能性のあるメーカーが複数出てきそうだからだ。
 前半はDRAMの価格下落が著しく、エルピーダメモリ<6665.東証>の収益を圧迫しそう。DRAMはもともとパソコンによく使われている記憶装置(メモリ)だが、昨今では携帯電話などにもよく使われている。パソコンによく使われる512メガバイトのDDR2(ダブル・データ・レート・ツー)の価格は単品で2ドル割れの異常事態が続いている。過去6か月間で7割も価格が下落。2ドル割れは「5年に1度あるかないかの低水準」(DRAMメーカー)で、税制優遇の庇護下にある台湾の一部メーカー以外は利益の出ない低水準である。ウィンドウズ・ビスタが1月のスタート・ダッシュに躓いたことが大きい。韓国の大手メーカーがビスタ効果を当て込んで作りすぎたのではないか、という疑念が燻る。
 業界では、「これくらいの価格変動はままあること。海外が”バック・トゥ・スクール”期(旧学期の終わる6月から新学期の始まる9月までの間)に入る7月にもパソコン需要が高まり、それを背景にDRAM価格は回復に向かうのではないか」という見方がある一方、「世界首位の韓国サムスン電子と同2位の韓国ハイニックスとが熾烈なシェア争いをしているため、DRAM価格の回復は鈍いのではないか」という見方も出てきている。
 7月にDRAM価格が回復に向かわなければ、次の回復タイミングはクリスマス商戦に備えて作り込む8月下旬から9月にかけてだが、このタイミングで本格回復に向かう保証はどこにもない。一寸先は闇だ。
 DRAM価格の極端な下落によって、半導体製造装置メーカーや検査装置メーカーへの影響も懸念される。DRAM用製造装置は中長期的な増産計画が目白押しであることから相変わらず需要が旺盛だが、DRAM価格の下落が7月も続くようだと、需要家の投資マインドが冷え込む可能性も浮上しそうだ。DRAM用製造装置が過半を占める国内首位、世界2位の半導体製造装置メーカー、東京エレクトロン<8035.東証>への悪影響が懸念される。半導体製造用検査装置で世界最大手のアドバンテスト<6857.東証>もこうした懸念と無縁ではなさそう。同社もまたDRAM向けの比重が高いからだ。
 一方、IT調査会社のアイ・サプライが「NANDの善戦はDRAMの苦戦」と指摘しているが、逆もまた真なりで、「DRAMの苦戦はNANDの善戦」となっている。音楽携帯端末からパソコンへと用途が拡大している記憶装置のNANDフラッシュメモリの価格は、DRAM価格の下落を尻目に高水準で推移している。容量8ギガビットのうち、多値品と呼ばれる主力品の価格は7~9ドル台と高め水準で推移している。
 NANDフラッシュメモリ製造で世界2位の東芝<6502.東証>の業績への好影響が期待できそうだ。特に米アップル社の新型携帯電話端末「iフォン」向けでNANDの需給が逼迫、東芝では需要に対するNAND供給の充足率は7~8割と需要超過の状態にあるという。こうした状況がNAND価格を引き上げているようだ。ただ、手放しの楽観視は危険と言えそうだ。最大手の韓国サムスン電子がDRAMでの収益の落ち込みを、価格が高いNANDで取り返そうとしてくることがほぼ確実視されているほか、フラッシュメモリ製造で世界第3位の韓国ハイニックスなども、同様にNANDへの生産シフトを進める可能性も指摘されている。
 こうした状況から、第2四半期以降のNAND価格動向については予断を許さない。特に、最近明らかになった東芝の第4工場での増産計画によって、08年央にも東芝は世界首位を奪還しうる生産能力が整う。この動きを受けてサムスン電子がさらなる増産投資に踏み切る可能性もあり、後半にかけて世界的なNAND供給過剰による価格下落リスクがつきまとう。
 今期後半は08年開催予定の北京オリンピック特需に期待が集まる。ただ、「北京特需は中小型の液晶テレビのみで、半導体全般には広がらないのではないか」という冷めた見方も出てきている。しかも、06年のドイツ・ワールドカップで、韓国や台湾のメーカーが32型の薄型テレビを作りすぎたことを考えれば、北京オリンピックで20型以下の中小型液晶テレビの需要が沸騰するかどうかすら疑わしい。FPD(フラット・パネル・ディスプレイ)製造装置製造大手のアルバック<6728.東証>は、07年1~6月期に大幅な受注減少、同7~12月期に大幅な売上高の減少を予想している(アルバックは6月本決算)。受注は同7~12月期、売上高は08年1~6月期には回復すると見ているが、北京オリンピック需要次第で変動する可能性がある。
 客観的な事実を積み上げていくと、半導体業界の先行きが明るいものとはとうてい思えない。確かに、東芝やエルピーダのほか、韓国、台湾の半導体メーカーの旺盛な設備投資意欲は追い風だが、FPDがそうであったように、需要家の意欲が突如萎えるリスクを常にはらんでいる。
【山田雄一郎記者】

(株)東洋経済新報社 四季報オンライン編集部

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