日立が失敗続きの伊鉄道会社を買収したワケ ヨーロッパ大陸に信号と車両製造で足がかり

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失敗続きで信頼が失墜したメーカーを日立はなぜ買うのか。日立としては、車両製造部門であるアンサルドブレダ社よりも、まず信号システムのアンサルドSTS社に興味があったのではと推測される。

信号システムのノウハウがカギに 

現在、ヨーロッパでは国境を超え、各国間の移動をよりスムーズにするために、各国の鉄道会社はインターオペラビリティ(相互運用性)に注力しているが、その一つが信号システムの統一であった。これまで、各国で採用されていた信号システムは、各国が独自に開発したもので、国を跨いで直通運転するためには、必ず相手国の信号システムを備えていなければならなかった。

この問題を解決するために開発された、ヨーロッパ標準信号システムERTMS/ETCSは、地上設備が整えば、ヨーロッパ中どこでも直通運行可能となる画期的なシステムだが、アンサルドSTS社は、その信号システムメーカーの最大手企業の一つだ。個々の技術力としては高いはずの日本企業が、これまで海外への市場展開が弱かった部分の一つとして、車両は車両メーカーが、インフラはインフラ会社が、というように、分野によって完全分業制となっていたところが挙げられる。海外の大手企業、例えばヨーロッパのビッグ3と呼ばれる3社は、いずれも車両だけでなくインフラも含めて売り込んでいる。

最高時速300km/hで走るETR500型

今回、日立がアンサルドSTS社を取り込んだことは、ヨーロッパ標準信号システムのノウハウを得たことを意味し、これは今後、日立がヨーロッパで事業を展開していく上では、欠かすことができない重要なキーポイントであることは間違いない。

では車両製造部門は、今回の買収では単なるおまけで、必要ないものだったのか。そう考えるのは早計で、こちらも日立にとっては、今後ヨーロッパで事業展開する上で重要な足掛かりになることは間違いない。日立は、英国の高速列車更新事業の案件を受注し、英国のニュートンエイクリフに新工場を建設したばかりだが、これから特にヨーロッパでの新規受注を目指すには、いずれさらなる製造拠点が必要となるし、特に大陸側に設けることの意義は大きい。

もちろん、大きな失敗を2つも犯した企業を買収するというのは決断のいることだったに違いない。前述のようなお粗末なトラブルが多発することは、企業イメージにとっては大きな痛手で、一度失墜した信頼を取り戻すことは、相当の労力を要することは間違いない。

しかし、アンサルドブレダという会社はマネジメントの部分や、品質管理の面をしっかり整えれば、決して技術力がないメーカーではない。イタリアは、個々の技術力、創造力の高さは、元来他のどの国よりも優れている部分があり、うまく歯車が噛み合えば、素晴らしいものを生み出す力がある。それは、イタリアという国が独自の技術をもって最高速度300km/hの高速列車を生み出した数少ない国の一つであることを見れば明白で、その技術の一翼を担ってきたのは、他ならぬアンサルドブレダ社だ。

また、日立を含む日本企業や製品のブランドイメージは、きちんと納期を守るなど組織としてのきめ細やかな管理能力と、故障などのトラブルが少ない高い信頼性であるということは、ヨーロッパではよく知られており、日本のこうした企業風土で、イタリア特有の高い技術力をまとめ上げることができれば、非常に強力なタッグになると言えるかもしれない。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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