「実家が布団屋だったんです。だからちょっとだけ良い布団を使っていて。子どものころは母が天日に干してくれた布団で昼寝をするのが楽しみでした。太陽の匂いがして、ふかふかして、本当に気持ちよかった。

その感覚を思い出して、眠りに向き合ってみようと思ったんです。きっと私だけではなくて、世間には自分の時間がなくて眠れない人や、心身の疲労で心地よく眠れていない人がいる……その事実にも思いをはせました」
「仕事一筋の会社員人生だった」と振り返るヨシダさんは、介護を通してそれまでの働き方や暮らしを見つめ直した。
ひとり暮らしの身軽さはあったが、家のことも自分の体のことも、つい後回しにして走り続けてきた約30年。けれど息切れして立ち上がれなくなったとき、母が整えてくれた布団の感触が、ヨシダさんに大切なことを教えてくれた。
出版業界でのキャリアと「ガラスの天井」
一方で出版業界での28年間、ヨシダさんは編集から営業、広告、新規事業と多くの部署を渡り歩いてきた。自らの企画が当たったということもあり、比較的若い頃から仕事が波に乗った。
しかし40代に入ると、会社組織で働くことの、別の側面も見えるようになったという。
「“分厚いガラスの天井”っていうんでしょうか。女性が多く活躍している会社でしたが、ある一定以上の役職になると、極端に男性ばかりになる。そういう環境にいると、旧来の男性的な価値観や働き方に合わせていくことが求められるんです。介護という体験を経た自分は、そこに同化する気持ちにはなれませんでした」
そんな逡巡を抱えた50歳のとき、会社で早期退職者の募集があった。
「対象者が集められた説明会の帰り道に、すぐに『辞めよう。卒業しよう!』と決心して。『この会社には充分にいろんな体験をさせてもらった。もう、次の人生に行こう』って。すごくスッキリとした、感謝の気持ちでしたね」
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