この家で感じた“心地よさ”は仕事人間だったヨシダさんを少しずつ方向転換させた。それが後に50歳で会社を辞めて独立するという選択にも、つながっていく。

心の底から「眠りたい」と思った日
家を買ったことの他にも、ヨシダさんの人生観に影響を与えた出来事がある。それが母の介護だ。
40代前半のとき、母が倒れた。父母が暮らす実家に通いながら、病院の送迎や付き添いを続ける日々が始まった。ちょうどその頃、会社では新規事業のリーダーを任されていた。週のうち3日は実家で病院への付き添いや介護をし、4日は仕事に打ち込んだ。
「当時はとにかく時間に追われていて、いつも寝不足。ちゃんと眠った記憶がないくらいでした。母の介護と仕事、父のこと、全部抱え込んでいて、削れるのは自分の睡眠しかなかったんです。『何よりも眠りたい』って、そのときは心から思っていました」
介護は数年に及び、次第に心身が限界に近づいていった。仕事を休まなければならない日が続き、罪悪感に苛まれる日もあった。
「実は一度退職届を出すところまで、追い詰められていました。でも受け取ってもらえず、その後2週間程で母が旅立ちました。だから私は”介護離職未遂”なんです」

母亡き後、心には穴があいたままだった。時間はできたが、何をしても気持ちが晴れず、眠りたいのに眠れない日が続いた。そんなとき、ふと蘇ったのが幼いころの布団の記憶だ。
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