小麦もトウモロコシも「コメ」の代わりにならない…日本が水田面積を維持すべき納得理由

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現代の欧米先進国の大規模畑作農業は、過去の自然界が気の遠くなるような時間をかけて育んできた「土」という自然資源を、短期間で消費してしまおうとしている。天然資源の枯渇の問題は、石油などの化石資源の問題だけではない。

これに対して水田による稲作は、これらの問題をほぼ解決しているといわれている。水田に連作障害はない。日本の水田は、急峻な地形の森林から流れる水によって、森林の養分を吸収することでコメを育む。雨水をため、表土を水で覆うことで、風雨による土壌流出を防ぐ。

日本の多くの水田は、2000年以上にわたって、1年も休むことなくコメを作り続けてきた。土地面積あたり・労働時間あたりの生産性という視点ではなく、地球と人類が共生していく農業という意味では、日本のコメ農業はもっとも持続的な農業だという意見も少なくない。

日本全体で守るべき農地、水田で守るべき農地

耕地面積が、国民1人あたり3.5aの現状水準が、食料安全保障上のギリギリの水準だとすると、2050年時点の人口が1億人だと仮定して、その時点で350万haの耕地面積を維持することが必要となる。

そのうち水田面積については、1人あたり50㎏/年間のコメ消費量があるとすると、10aあたり500㎏の反収(たんしゅう)で仮定すると、需要量500万トンのコメの作付面積として、約100万ha程度が必要になる。世界の気候や食料供給システムが安定しており、小麦などの輸入穀物が安定して調達できるとしても、まず、ここだけはしっかり維持・確保する必要がある。

もし、世界の食料供給に決定的な問題が発生し、国内で主食穀物を供給しようとするのであれば、コメを中心に、国民1人あたり100~120㎏の穀物を生産できるようにしておくことが望ましいだろう。

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いざとなった時に、コメを増産し1人あたりの穀物を100~120㎏生産できるようにするためには、さらに100万~140万haの水田が必要になる。ベースの水田100万haとあわせると、200~240万haになる。このうち一定の比率は畑作の小麦や大豆でも構わないだろうが、日本の気候・風土との相性から考えれば、いざとなった時になるべくコメを作付けできるようにしておくことが望ましいのではないだろうか。

現状、水田面積はすでに220万haしかない。以上をふまえると、現状の水田は、なるべく維持していくべきだと考える。少なくとも、現状、主食用米以外も含めて水稲が作付けされている155万ha、さらに水田で小麦や大豆が作付けされている約40万ha、あわせて195万haの水田は、2050年においても水田として維持させておくべきだ。

それが、日本のいざとなった時の食料安全保障の土台である。

稲垣 公雄 三菱総合研究所・食農分野フェロー

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いながき きみお / Kimio Inagaki

滋賀県生まれ。京都大学経済学部経営学科卒。1990年、三菱総合研究所入社。これまでに、関西センター長、ものづくり事業革新センター長、経営イノベーション本部副本部長として事業会社・金融機関などのコンサルティングに従事。2021年より食農分野担当本部長、24年10月より研究理事(フェロー)。現在は、企業経営戦略・農業政策に関する研究提言、農業分野を中心に社会課題解決を実現する企業・経営体や行政組織の事業改革、事業創出に取り組む。

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三菱総合研究所「食と農のミライ」研究チーム

三菱総合研究所(MRI)は、1970年に三菱グループ100周年事業で設立されたシンクタンク。食農分野においては、「食と農のミライ」研究チームが中心となり、日本の農業の持続的発展を通じた食料安全保障の実現や、食品・農業の環境対応などの社会課題解決を目指した研究提言・事業実装に取り組んでいる。

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