グローバル社会の人材育成・活用 就学から就業への移行課題 樋口美雄、財務省財務総合政策研究所編著 ~急がれるデータ評価を考慮した制度デザイン
私事だが、ここ数年中学生の子どもたちに愚痴られている。「ゆとり教育がだめだっていうけど、私たちだけバカなまま大人になるの?」、返す言葉がない。「試験で測れない能力を伸ばすと言っておいて、試験の成績が下がったらやめるのはおかしいよね」、日ごろ感じていたことをそのまま返していた。実際、政策評価がきちんとされているか心もとないのである。
本書は、ミクロ計量による政策評価の重要性を訴えながら、学校教育と企業内人材育成の現状に可能な限り迫ろうとしたものだ。カバーしている範囲は学校教育から英語教育、企業内研修、外国での人材育成の現実と、幅広い。評者は職業上の、そして人事管理という専門上の理由から、大学生の就職活動の変遷を論じた第3章と英仏両国とスイスの人材育成を論じた第9~11章を興味深く読んだ。
幅広い分野の方の関心を呼ぶのは、第2章の、学力に大きな影響を与える項目を調査した5地域(日本、韓国、台湾、香港、シンガポール)比較だろう。高い教育水準をもつ5地域において、学級規模よりも自宅の蔵書数や親の学歴の方が概ね10倍以上の大きな効果をもたらしている。日韓両国では家庭の辞書の有無は中学生の偏差値で6から7の違いを出している。また、早生まれはどの地域でも概ね成績には不利だ。人材育成に当たりどこに焦点を当てるべきか、示唆に富む指摘だ。
外国に比べてわが国の政策評価は極めて遅れている。そもそもデータによる評価を考慮した制度デザインがなされていないので、印象に基づく方針転換の繰り返しが止まらない。本当に人材育成で日本の活路を開く気なら、第1章の赤林英夫・荒木宏子両氏が熱く訴えるように個人データを追跡的に調査する仕組みを導入すべきである。
ひぐち・よしお
慶応義塾大学商学部教授。同大学商学部卒業。米コロンビア大学経済学部客員研究員を経て、1991年より現職。その間、一橋大学客員教授、米スタンフォード大学客員研究員、米オハイオ州立大学客員教授、国民生活金融公庫総合研究所長などを一時兼任。
勁草書房 4725円 356ページ
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