家庭で孤立気味の父親が、息子に「信用してくれて嬉しかった」と言われるまで 小言癖の父をを変えた"叱らない"サッカークラブの教え

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「そんな仲間からのフィードバックも、自分がホメられた気持ちになれて嬉しかったです」

そう話す哲生さんも、次第に「今の自分も頑張っているからそれでいい」と自己肯定感が上がり、妻や子どもたちへの感謝の気持ちも高まり、子どもたちへの小言も減っていった。

美佐子さんによると、「子どもの言動が気になっても頭ごなしには怒らず、かなり我慢できるようになりました」という。小言を言わずに子どもを見守れることは、子離れ親離れへのワンステップでもある。

迎哲生さん・美佐子さん夫妻(筆者撮影)

「すると不思議なんですが、子どもたちから『駅まで車に乗せてって』とか、話しかけてくれることが増えました。ええ、嬉しかったですね」(哲生さん)

美佐子さんは家庭でも子どもたちに、「どうすればいいと思う?」と、フォレスト式に質問して、各自に考えさせるのがうまいんですと、哲生さんは話す。もちろん、これも「美佐子さんホメ」の一つだ。

中学3年生になった三男に話を聞くと、「昔はお父さんに怒られてばかりいたから(『帰ってこなくてもいいのに』と言ったりして)冷たかったかも……。でも途中からたまに怒っても、『お前に任せるからちゃんとしろよ』みたいな言い方で、信用してくれるようになったので嬉しかった」と率直に話した。

職場でも感謝を伝えて「任せる力」を磨く

哲生さんの変化は職場にも及んだ。家庭同様に部下の仕事ぶりを観察して、こまめに「ありがとう」と伝えると、以前より会話が増えた。その後はフォレストの「コーチング講座」を受けて「傾聴」と「承認」を学んだ。

前者はミスがあっても頭ごなしに怒らず、まずは部下の説明を聞くこと。後者は、その説明を自ら反復することで部下の自己肯定感を上げることだ。

「結果、部下との関係は以前より親密になり、最近は思い切って部下に仕事を任せることも増えました。以前の私なら、おそらく自分のやり方を強要していたはずですが、仮に自分とは違うやり方でも、『一度やってみたら?』と言えるような、心のゆとりができました」(哲生さん)

人生初の「自分ホメ」練習から始めた哲生さんは、父親としては「見守る」力を、上司としては「任せる」力を高められた。

今までの家族に対する「当たり前」をいったん棚上げして、家庭内で自分が果たす役割を見直し、それを実践するたびにまず自身をホメること。さらに妻や子どもの言動を観察して、「ありがとう」ポイントを見つけること。

そう、哲生さんの挑戦はたった2つだけだ。だから誰にでも、今日からでも真似できる。

一方、負けず嫌いの反面、幼い頃は「どうせ自分なんて」と弱音を口にすることもあった三男は、自ら高校やサッカー部について念入りに調べて、県外の高校に進学してサッカーを続ける。三男の話だとフォレスト同様に生徒たちが「自分で考えて行動する」雰囲気が似ていたらしい。親元を離れ、人生初の寮生活を三男自身が決めた。

荒川 龍 ルポライター

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あらかわ りゅう / Ryu Arakawa

1963年、大阪府生まれ。『PRESIDENT Online』『潮』『AERA』などで執筆中。著書『レンタルお姉さん』(東洋経済新報社)は2007年にNHKドラマ『スロースタート』の原案となった。ほかの著書に『自分を生きる働き方』(学芸出版社刊)『抱きしめて看取る理由』(ワニブックスPLUS新書)などがある。

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