背景には「艦これ」の存在があった? バス会社運営「地方私鉄」のレストラン列車、自衛隊との"異色コラボ"の訳
その多くは、赤字で廃止となった国鉄・JR路線を受け継いでいるため、たとえ地域に必要でも、経営基盤は軒並み弱い。きわめて不利な経営条件のなか、高速バスなどを運営するWILLERグループが第三セクター鉄道路線の経営に参入したきっかけは……直接のきっかけは「北近畿タンゴ鉄道の経営難による委託先募集」だ。
京都丹後鉄道の前身である「北近畿タンゴ鉄道」は、廃止対象となったJR宮津線を受け継ぐ第三セクター鉄道として1990年に開業。のち新線・宮福線の開業で、首都圏なら東京駅~三島駅間にも匹敵する「総延長114km」という長大な路線網が完成した。
しかし、特急列車が乗り入れる長距離・高規格仕様を維持するには、あまりにも経費がかかりすぎた。かつ20年間で年間303万人→186万人という利用者の激減もあって年間10億円以上の赤字を記録するようになるも、第三セクター鉄道であるがゆえに、沿線自治体は「お役所仕事」の域を超える改善策を打てない。
こういった場合に外部からの経営者に頼る場合も多いが、第三セクターを支える自治体が「赤字はちょっと埋める、経営改善策ひとつにも自治体すべての承認が必要」といった状態では、代表取締役として招聘されたほうも、成すすべがない。かといって、街が広範囲に分散している京丹後地方で鉄道を廃止してしまうと、代替バスは所要時間がかかって快適性が落ち、高校生は隣町への通学すらおぼつかなくなる。
白羽の矢が立った「WILLER」
各自治体は早期に「全線存続」の方向性で一致、設備などを実質的に自治体が保有する「上下分離」で経営側の採算ラインをグッと軽減させたうえで、「鉄道の運営事業者を公募の上で民間会社に委託、集客ノウハウを発揮してももらう」という思い切った手段を取った。事業者の公募が行われたものの鉄道会社の応募はなく、鉄道系コンサルタントなど4社の応募の中から選ばれたのが、バス会社である「WILLER」陣営(当時の「WILLER ALLIANCE」)だったのだ。

こうしてWILLERは、新ブランド「京都丹後鉄道」の運営事業者として、2015年に鉄道事業に参入した。ここでWILLERが強みを発揮するなら、参入前から運行していた「丹後くろまつ号」などのレストラン列車を会社のメインに据えたり、減便・合理化などで短期的に黒字化させることもできたはずだ。
しかし、まずWILLERが執った方策は「地域の利用者に利用してもらうための改善」だった。地域の企業・学校などでのヒアリングを徹底的に行い、まずは増便の上で「主要駅のパターンダイヤ化(毎時〇分発)」「待合室の列車待ち環境改善」などの一手を次々と打ち、「列車は来ない、時刻は分かりづらい、待ち環境は快適でない」といった部分が、一挙に改善された。
また飯島代表取締役によると、バス会社であるWILLERならではの「地域のバス・タクシーとの連携」にも取り組んでいるという。沿線の駅は集落から遠い場合も多く、峰山駅ではスマホで予約できるデマンドバス「mobi」を待機させたり、天橋立駅の駅舎にセンサーカメラを付けて、状況によっては続行便が必要な「丹後海陸交通」(丹海バス)の混雑状況をバス側に知らせるなど。鉄道・バス・タクシーなどの枠にこだわらない「クルマなしで地域を移動しやすくする」取り組みは、交通事業に携わる人々なら、いちど見ておいたほうが良い。

地域の利便性の向上とそのうえで、並行して「丹後くろまつ号」などレストラン列車のサービスレベル向上も行われた。参入当初はまともにコーヒーを出せる人材すら少なかったものの、飯島代表取締役によると「大手航空会社の客室乗務員として経験を積んだ講師を定期的に招聘している」といい、今ではさりげない笑顔で来客に目を配るアテンダントが、多く育っている。
そんな「丹後くろまつ号」は、鉄道ファンというよりも、「クラブツーリズム」「JTB」などのツアー会社を経由して乗車するほうが、圧倒的に多いという。地方私鉄のレストラン列車が鉄道ファン向け・一部の人々向けになりがちだが、「丹後くろまつ号」は接客・料理ともにしっかりとサービスレベルを保ち、鉄道に興味がない人々を満足させる「観光商品」として成立しているからこそ、堅調に利用されているのだ。

まとめると、京都丹後鉄道と沿線自治体の取り組みの成功要因は「ノウハウと熱意を持つ民間会社に、思い切って運営を任せる」「沿線地域は利用促進策だけでなく、腹をくくって金銭面で支える」「まずは『地元利用の獲得』」「観光誘客やレストラン列車は、身内や鉄道ファンにとどまらない『普通の観光客』に届くことを意識する」といったところか。
各地のローカル鉄道の存続問題は、地域の悩みのタネとなっている。利用者の減少や経営難に悩んだり、沿線自治体が「鉄路維持は責務だから」と、役目を失った鉄道の存続にかかる億単位の赤字を鉄道会社に押し付け続けたり……。
その中で、移動手段としての鉄道の重要性をしっかりと認識したうえで、「『予算拠出』という腹を括って支える沿線自治体」、「観光・地元利用をどちらも大切にしながら走り続ける京都丹後鉄道」、そしてWILLERの取り組みに、今後とも注目していきたい。
経営は依然として苦しいものの、「鉄道は地域に利用されてこそ」と胸を張って答える飯島代表取締役と、現場の社員の方々の笑顔が印象に残った。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら