1位沖縄、2位鹿児島、3位福岡…インフル流行地の意外な特性――感染拡大が冬だけじゃなくなった"根本原因"と"対処法"《医師が解説》

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ただし、現行の不活化ワクチンは、インフルエンザウイルスの活化をなくしたものであり、有用性の面では多くの問題を抱えている。

例えば、高齢者への対応だ。高齢者では免疫反応が低下しているため、抗原量を増やした「高力価インフルエンザワクチン」が開発され、アメリカでは65歳以上への接種が標準選択肢となっている。

代表例は、フランスのサノフィが開発したワクチンFluzone High-Doseで、通常の4倍の抗原を含む。同社の研究チームが、2014年にアメリカの『ニューイングランド医学誌』に発表した、65歳以上3万1989人を対象とした研究によれば、高力価ワクチンはインフルエンザ感染のリスクを24%低下させた。

高齢化が進んだ日本こそ、高力価ワクチンの導入が必要だが、残念なことに、日本では未承認である。

技術革新は、高力価ワクチンだけではない。mRNAワクチンの開発も進んでいる。6月30日、アメリカのモデルナが第3相臨床試験の結果を発表したが、従来型の不活化ワクチンと比較して、50歳以上の成人で感染リスクを26.6%低下させたという。

mRNAワクチンは変異株への対応が容易で、突然変異を繰り返すインフルエンザ予防には好都合だ。やがてアメリカで承認され、臨床現場に投入されるだろう。

寝ているがん細胞が目覚める

最後に、インフルエンザ感染の予期せぬ合併症について、最新の研究をご紹介しよう。

アメリカのコロラド大学を中心とした研究チームが世界的な科学雑誌『ネイチャー』に発表したものだ。彼らは、インフルエンザやコロナ感染が、潜伏していたがん細胞を目覚めさせ、転移を誘発する仕組みを調べた。

マウスの実験では、インフルエンザ感染で肺のがん細胞が100倍、新型コロナウイルスでも10倍に増殖し、いずれも短期間で転移病変へ進んだ。炎症性サイトカインのIL-6の上昇がカギだったという。

動物実験の結果のヒトにおける妥当性を調べるため、乳がんの女性約4万人の医療記録を調査した。すべての女性は乳がん診断時点で新型コロナには感染していなかったが、そのあと約3年間で532人が感染した。感染した女性は、感染しなかった女性に比べて、がんの肺転移の発生率がおよそ1.5倍高くなっていたという。

こうした事実は、呼吸器感染症ががんの進行を加速しうることを示唆する。年齢を問わず、がん患者はがんの再発予防の観点からもワクチン接種が望ましいようだ。

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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