もうひとつのリスクは、トランプ関税に関する司法判断である。8月29日、アメリカの連邦巡回控訴裁判所で行われていた控訴審は、1審判決を支持する判断を下した。5月28日に同国の国際貿易裁判所が下した判決、IEEPA(国際緊急経済権限法)を根拠とする「フェンタニル関税」と「相互関税」が違法であるとの判断を是としたのである。
もちろんトランプ政権は上告し、審理は連邦最高裁に持ち込まれる。最高裁は毎年、7月から9月まで長い夏休みを取るので、今も本来は休暇中である。ところが最高裁は双方に対し、9月19日までに最初の準備書面を提出するように命令し、11月第1週には最初の口頭弁論を開始するとのこと。この日程であれば、年末にも判決が出るのではないか。
アメリカ最高裁がトランプ関税を否定したら大混乱に
仮に最高裁が下級審を支持し、トランプ関税を否定したらどうなるのか。通商拡大法232条に基づく分野別関税(鉄鋼・アルミ関税など)はそのままだが、相互関税は完全に否定されることになる。その場合、4月から支払われてきた関税が差し戻しになるし、アメリカ政府から見れば、これまでに得てきた膨大な関税収入を返還しなければならなくなる。
それと同時に、日米合意やEU、韓国などと結んだ投資の約束も一気にチャラになるだろう。日本にとっては朗報とも言えるが、返還される金額は数千億ドル規模に達するだろうから、それがもたらす混乱は計り知れないものとなりそうだ。
「最高裁は保守派が多数を占めているのだから、かならずトランプ政権に有利な判決が出るはずだ」という声はよく聞く。しかしそうとは限らないと思うのだ。司法の世界における保守主義とは、いわば「条文主義」である。つまり憲法や法律をなるべくそのままに解釈する。そして合衆国憲法には、「関税を決めるのは議会」であると書いてある。大統領が勝手に国ごとに税率を決めたりするのは本来、変なのである。
そして相互関税の根拠とされるIEEPAという法律には、「関税」という言葉は1回も出てこない。「司法は行政の判断には踏み込まない。特に外国が絡んだ件では判断を避ける」という経験則はある。しかしトランプ関税に対する最高裁の判断は、かならずや歴史に残るものとなる。9人の判事にとっても、真剣勝負ということになるだろう。
仮にこの件がテールリスクであるとしても、かなりの破壊力を秘めていることは間違いあるまい。相場が「陶酔とともに終わる」ひとつの契機として、くれぐれもご用心を(本編はここで終了です。この後は競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。
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