震災復興 欺瞞の構図 原田泰著 ~被災者の生活再建への直接的支援を勧める

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震災復興 欺瞞の構図 原田泰著 ~被災者の生活再建への直接的支援を勧める

評者 中里 透 上智大学経済学部准教授

去年の今頃は東日本大震災復興構想会議が発足し、復興増税のあり方をめぐって活発な議論が行われていた。それから1年が経ち、復興増税は予定通り制度化されたが、被災地の復興は必ずしも順調に進んでいるとはいえない状況にある。こうした中で刊行された本書では、現在進められている復興策の問題点に関する詳細な分析と興味深い代案の提示がなされている。

内閣府によれば、東日本大震災による物的資産の毀損額は16・9兆円と推計され、これを踏まえて19兆円超の予算が復旧・復興費に充てられることとなっている。だが、16・9兆円という毀損額は過大推計であり、実際の被害額は6兆円程度であると著者は言う。

それにもかかわらず20兆円近い財源が必要とされるのは、被災地の復興とは関係のない無駄な事業が復興予算の中に紛れ込んでいるからだというのが著者の見立てである。「創造的復興」の名のもとに巨額の予算を投じて行われる公共事業が、ゴーストタウンを造るという結果に終わるのであれば、このような復興策については再考が必要ということになるだろう。

著者によれば、最も効率的な復興策は、被災者の生活再建への直接的な支援策を講じることだという。このような個人補償については「人々が自然災害を避ける努力をしなくなる」というモラルハザードの問題が指摘されることがあるが、個人を対象に直接的な支援策を講じて早期の自立を促すことと、公共事業による地域振興によって政府への依存を助長することのいずれが復興策として望ましいかは、従来の枠組みにとらわれず、柔軟に比較衡量することが必要な点であろう。現在進められている復興策が本当に被災者や被災地のためのものになっているのか、あらためて考えてみたい。

はらだ・ゆたか
早稲田大学政経学術院教授、東京財団上席研究員。1950年東京生まれ。東京大学農学部卒。経済企画庁、財務省、大和総研などを経て現職。著書に『日本国の原則』(石橋湛山賞)、『昭和恐慌の研究』(共著、日経経済図書文化賞)など。

新潮新書 714円 191ページ

  

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