「大変なのは、婚姻届・離婚届の証人欄にサインしてもらうこと。婚姻届はすんなりとサインしてくれる方が多いのですが、離婚届は心理的に抵抗があるようで。大学の先生方は事情を知っているので快く引き受けてくれますが、それ以外の知り合いには断られることもありました。子どもたちが成人してからは彼らがサインしてくれるので、少し楽になりました(笑)」
「別姓」議論と実生活のギャップに戸惑いも
選択的夫婦別姓の議論では、「姓の異なる家族の絆」がしばしば取り上げられる。この点について長男・翔太さんに尋ねると、「生まれたときから夫婦別姓の家庭なので、改めて考えたことはなかったですね。誰かに特別アピールするものでもないし……」と少し考え込みながらも、こう語ってくれた。
「うちの家族は、きょうだい仲がすごくいいと感じます。友達の中には”大人になってからは数年に1回しかきょうだいと連絡しない”という人もいますが、うちは毎日のようにメッセージを送り合っています。妹の部活の大会が、僕の住んでいる地方で開催されたときは、泊まりに来たこともありました」
「きょうだいみんなが仲良くしてくれているのが自慢」と微笑む石川さん。「家族の絆は、やっぱり日々の暮らしのなかでできていくのでは」と続ける。
「食事を作ったり、小さい頃ならお風呂に入れてやったり、学校からお叱りを受けて謝りに行ったり。そういう日常の積み重ねが家族を作るのだと思います。夫婦別姓でも、山田の実家とは普通に交流していましたし、私自身も義母が亡くなるまで精一杯お世話をしました」
「名字が違うと家族の絆が弱まるのでは」という声について、石川さんは「実生活では、そういうことを言う人に会ったことがない」と首を傾げる。次女からも時折「テレビでまた夫婦別姓の家族の絆が取り上げられていた」とメッセージが届くことがあるそうで、「なぜ名字の一致がそんなに大きな問題になるのだろう?」という戸惑いが伝わってくる。
「もし夫婦別姓のために事実婚をすることに不安を感じている方がいたら、『ほとんどの人は、他人の名字に関心なんてないですよ』と伝えたいです。税制や相続の違いはありますが、それ以外の家族としての生活は変わらないと感じています」
山田さんもまた、「名字が同じだから家族の一体感が生まれるという考え方には違和感がある。本当の愛があれば、名字が違っていても絆は深まるのでは」と話す。
「私が大事にしているのは、夫と妻、子どもたちができるだけ平等であることです。家族のなかに複数の名字があり、それぞれが尊重される。結婚しようと決めたときから、対等な関係性で、なおかつ仲の良い夫婦でいるためにはどうしたらいいのかを考えながら、手探りでやってきました」
取材の間も、夫婦別姓や家族の在り方について親子で意見を交わし合う姿が印象的だった。楽しそうに語り合う様子からは、33年前に描いた「男女がより対等である夫婦」という関係性が、家族のなかで育まれてきたことが感じられた。
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