「妻の姓を名乗る私」から見た夫婦別姓論の"本質" そこには「近代社会の不安」が凝縮されている

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夫婦別姓の議論、その本質について考えます(写真:Ushico / PIXTA)

SNS上を見渡すと、夫婦別姓をめぐる議論を見ない日がない。2022年3月に夫婦別姓を認めない民法や戸籍法の規定は憲法違反だとして、事実婚の男女が国に賠償を求めた訴訟で、最高裁が同規定を「合憲」とする判決を出したのはまだ記憶に新しい。

現在の民法では、結婚の際、男性または女性のいずれか一方が必ず姓を変えなければならない。結婚して姓を変える人は、女性が圧倒的に多く、全体の約95%を占める。筆者は、結婚して姓を変えた5%の男性のうちの1人である。

改姓後に起こった出来事は、夫婦別姓を考えるうえで非常に有益であった。本稿では、私個人の経験などを踏まえながら、夫婦別姓を議論する際に必要となる視点について論じてみたいと思う。

改姓をめぐって経験した制度的な不条理

まず私が姓を変えたときの両親の反応が微妙なものだったことをよく覚えている。最初は「婿養子になるのか」という問い掛けだったが、ほどなく「なぜ(こっちが)名字を変えないといけないのか」という反応が返ってきた。

私はもともと姓にこだわりがなかったので、妻の要望に従う形で改姓したにすぎなかった。そのような経緯について淡々と説明すると、最終的に両親は受け入れてくれたが、家族内あるいは家族同士のトラブルに発展する例も少なくないと聞く。

また私個人の負担に関しては、免許証、通帳、社会保険など諸々の手続きは思いのほか面倒くさく、旧姓を「通称」として使用することを選んだこともあって、対応ミスをされたことが一度や二度ではなかった。

けれども、それよりも困惑させられたのは、多くの人々が私が改姓したと知った途端、「婿養子になった」と決めつけることのほうであった。たまたま5%の世界に飛び込んだことをきっかけに、図らずも制度的な不条理を思い知らされたといえる。

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