しかし、実際に旅に出てみると、少し困ったことが起こった。
宮脇俊三さんもこの著書の中で書いているが、全線乗りつぶしを阻むように立ちはだかる、全国ローカル線に存在する「盲腸線」(行き止まり路線)の存在だ。
赤字ローカル線が相次いで廃止となり姿を消した1980年代以前に比べれば、その対象となる路線はだいぶ減っているが、それでも地図を眺めるとなんと盲腸線の多いことか……。しかも時刻表をめくると1日に走る本数が少ないため、せっかく目的地を訪れてもその盲腸路線だけ乗り残し、泣く泣くあきらめて帰ることも多かった。
もちろん時間的余裕がある旅なら、折り返して「行き」とは反対の車窓をゆったり味わっておきたいところだが、如何せん時間は限られている。最短距離を探しているわけでもないのでスマホの乗換案内では適切なルートなど示してくれない。なんとか効率的に乗りつぶしを進める方法はないものだろうか?
そんなことを路線図に目をやりながら考えていた矢先、ある考えが頭に閃いた。「盲腸線の終着駅と近隣の駅を結べないか」。単に盲腸線の終点まで行って折り返すという同じ路線を二度なぞる方法ではなく、バスや徒歩、船など鉄道以外の手段で近隣の駅とつなぎ、まるでひと筆書きのように進めば、ぐんと早く着くことができる。途方もない目標に感じていた「完乗」が夢ではなくなるのではないか!と、思えた瞬間だった。
「つなぐ旅」というショートカット技法
こうして研究を始めたのが「つなぐ旅」=ショートカットの技法だ。
すると、全国に散在していたローカル線の一つ一つの駅が見えない糸で結ばれていく。鉄道路線図に線は引かれていないものの、「ひょっとしてここは、つながるんじゃないか」と見えないルートを見つけ出し、旅の行程に組み込むのが密かな楽しみのようになっていった。時刻表の地図では遠方に見えたが、実際は2つの駅が近接していることも多い。地図を眺めながら、旅先で新ルートを偶然見つけ出す喜びは、実にスリリングで心が躍る。
九州北部に筑豊本線という路線がある。若松駅から直方駅を経て原田駅まで結ぶJR九州の路線で、乗客の利用状況に応じて3つの運行系統に分断されている。もっとも海側の部分、「折尾―若松」間がいわば盲腸線の部分にあたる。
そこで地図をよく見ると、洞海湾に隔てられた向こう岸に鹿児島本線の戸畑駅が近接しているではないか。ここをつなげないか調べてみると、あった! 若松―戸畑間をショートカットしてつなぐルートだ。
列車で戸畑駅を出発し折尾駅で乗り換えて若松駅まで行く場合、約50分かかるが、バスなら戸畑―若松間は約10分、渡し船でも36分だ(どちらも徒歩時間含む)。バス、渡し船もともに本数は豊富にあり利用しやすい。
所要時間だけを考えると若戸大橋を渡るバスが早いが、旅情や風景を楽しみながら回るのなら絶対に渡し船を乗っておくべきだ。自転車でも乗ったまま渡れ、地元の人たちの足にもなっている。僕自身もこの渡し船を利用し、海沿いの工場風景を楽しみながら巡ることができた。特に、若松駅前に静態保存されている「9600型国産蒸気機関車」を見つけたときは、感激もひとしおだった。
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