水族館の人気者バンドウイルカを死に追いやった「ブドウの房」のような姿をした生き物の正体――飼育員さんの強い思いで実現した出張解剖
人類との長い付き合いがあるイヌやネコならともかく、イルカのような海棲哺乳類の獣医学は、まだほとんど確立されていません。専用の薬などもありません。病理解剖にしても、多くの獣医師さんはイルカを解剖する機会などめったにないでしょう。
イルカはドロッとした濃い色の血液をしています。解剖すると周囲が血液で覆われてしまうので、病変の観察がしにくい。
基本的な臓器の配置は陸上の哺乳類と共通していますが、心臓が横に広がっている、脾臓が丸っこい、胃が3つに分かれている、小腸と大腸の境目がわからない、精巣がお腹の中にある……など、イルカに特有の解剖学的特徴も多く、イルカの解剖に慣れている獣医師ではないと、正常と異常の区別は困難です。
教科書だけではわからないこと
また、樽形の体はちょっとした拍子に転がってしまい、解剖すること自体が難しい。こればかりは本などで読んでいてもダメで、実際に何体も解剖して少しずつ慣れていくしかないのですが……その経験がなかなか積みにくいのですね。
日本は、人口当たりの水族館が世界最多とされる水族館大国です。そんな国の水族館とそこで働く人々には、動物の死からは真摯に学び、その学びを後の命に生かすことを心がけていてほしい――遺体となった動物たちとの対話を仕事としている僕は、そう願わずにはいられません。
そのために、できるかぎりの協力をしたいと思っています。

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