「無在庫経営」が早期の供給再開に役立った--いわき市の工場群が被災したクリナップ、生産本部長が語る震災の教訓

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--受注を停止し、他社商品に乗り換えられる心配はなかったか。

もともと、当社は完成在庫を持たずに受注に応じて生産する、いわゆるトヨタ方式の生産システム(NPS)を取り入れた生産管理を行ってきた。震災によって生産がストップしたことで、受注してもいつ出荷できるか、納期を答えられない。それが何といってもいちばんつらかった。

被害状況がわかった3月14日時点で商品が出せないと判断、それまで受注を受けていた顧客すべてに当社の営業担当者がお詫びし、注文をいったんキャンセルしてもらい他メーカーへ注文を振り替えてもらうようこちらから依頼した。それでも、「SS」という当社の高級ラインを注文していた顧客には、復旧まで仮の簡易キッチンを入れても待つと言ってくれたお客さんがいたのはありがたかった。

--中価格帯の主力商品「クリンレディ」の新製品の発売を控えていたが、影響は。

新製品は6月1日に出荷を開始したが、もともとは5月1日の予定だった。新製品を出すことは2月ごろ発表しており、前注文もかなり入っていた。震災後も、「他のラインはダメでも、新クリンレディだけは出せ」というのが井上強一社長の命令だったが、穴開けプレス機など主要設備のある鹿島システム工場は原発から50キロメートル圏内で、原発避難区域が広げられると立ち入りできなくなる可能性があった。そのため、一時は設備を他所に移すことや、主要機械をメーカーにいったん戻すことも考えた。



新規導入の穴開けプレス機


キャビネット組み立てライン


 ただ、3月20日ごろには原発もだいぶ落ち着き、その頃社長が現地に入って全現場を視察したあと、いわきで生産を続けるという結論が出た。「茂、いわきと心中だ」という社長の声を聞き、われわれは一気にやる気が出た。

その後、社運を懸けるという意識で準備を急ぎ、6月の出荷開始後、おかげさまで販売は好調だ。いわきに加え、岡山工場にも同じ設備を導入し、8月には需要期の秋に対応するために増産体制を整えた。現在もクリンレディの出荷は前年対比3割増しペースが続いている。


クリンレディ出荷前


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