「パンダ見たいなら中国に来るべき」との声も…。返還続く《日本暮らしのパンダ》。私たちの愛する「白黒のモフモフ」は、いつ日本に戻るのか?

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2000年以降、高齢となった巴斯の健康状態は徐々に悪化し始めた。パンダの約5%が白内障を患っているといわれる。2002年4月、福州市の複数の病院による共同手術が行われ、巴斯はパンダとして初めて白内障の手術に成功した。2010年6月には膵炎と急性腸炎を併発し命の危機に瀕したが、医療チームの尽力によって一命を取り留めた。

2015年には巴斯を主人公としたプロモーションビデオがアメリカ・ニューヨークのタイムズスクエアで流された。2017年1月18日、巴斯は37歳の誕生日を迎えた。福州市動物園に彼女と同じ年に生まれた100人が集まり、「最も長く生きたパンダ」を祝福した。その年の9月13日、巴斯は天寿を全うするようにこの世を去った。人間でいえば、110歳に相当する長生きだった。

巴斯は、聡明で運動能力も高く、「功勲パンダ」とまで称えられた。だが、今思う。彼女には、少し重すぎる期待が背負わされていたのではないか。

パンダは芸を披露しなくてもいい。英雄にならなくてもいい。ただ愛される存在として、のびやかに日々を楽しめれば、それだけで十分なのだ。中国のスターパンダの存在は、日本人には知られざる中国のパンダ事情かもしれない。

パンダが日本に戻ってくる日はいつになるのか

コロナの最中の2020年9月8日、上野動物園では「パンダのもり」がオープンした。屋外展示ではガラス越しではなく直接パンダを観察できるエリアもあり、行動展示や繁殖支援のための工夫も施されている。

四川省の自然をモデルにしたという新施設はテレビ報道を見ても大変立派で、コロナ禍でマスクをつけてそれを眺めている来場者より、パンダのリーリーとシンシンのほうがよほど優雅な暮らしをしているように見えた。

上野動物園にパンダの姿がない……そんな光景は、考えられない。上野駅周辺を歩けば、至るところにパンダの痕跡が見える。店先の看板、ポスター、ぬいぐるみ、お菓子……まるで、この街がパンダと共に呼吸しているかのようだ。

萌大
パンダが日本に戻ってくる日はいつになるのだろうか。中国の報道官の笑顔は、前向きに検討するというシグナルなのだろうか(提供:北京パンダ萌大ファン後援団)

今年5月末、中国外交部の記者会見で印象に残った場面がある。中国の報道官は、普段から厳しい態度をとっていることが多い。そんな報道官が、ふっと表情を和らげたのがパンダの話題だった。

日本人記者が「和歌山に新しいパンダを提供する予定はありますか?」と尋ねたときだ。報道官は「日本のパンダは長年愛されてきた」と語り、「また中国に会いに来てください」と笑顔で応じる場面があった。

これは「前向きに検討しますよ」というシグナルだろうか。ただし、パンダは日中関係において「戦略」の一端を担う存在ではなく、両国の人々の心をつなぐ「かわいい」絆であることを願う。

上野で食べたパンダあんぱん(筆者撮影)

日本へのパンダの貸与を継続するかどうかについて、中国民間には真逆の意見もある。

例えば、「日本を含む外国へのパンダの貸与を中止し、パンダを見たい人は中国に来るべきだ」「日本人はパンダを愛している。日本人に感謝する!私は日本旅行のとき、上野動物園に行った。日本のパンダは幸せだ」といった声がある。

再び和歌山県や茨城県、兵庫県に……日本の動物園に、白と黒の「モフモフ」が現れるその日を、静かに、心待ちにしていたい。

【もっと読む】中国出身の私がNHK朝ドラ《あんぱん》を見た結果 戦争描写に感じる「抗日ドラマ」「中国の歴史記憶」との相違点 では、ジャーナリストの黄文葦氏が、NHK朝ドラ「あんぱん」を起点に日中関係について詳細に解説している。
黄 文葦 ジャーナリスト

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こう ぶんい / Kou Buni

日本と中国、日本語と中国語を愛する在日中国人フリージャーナリスト。学校法人白萩学園名誉理事。中国の大学と日本の大学院でマスコミを専攻、日中両国のマスコミの現場を経験。2000年来日以降、日本語と中国語で教育、社会、文化の問題に焦点を当てたコラムを執筆し、両国の「真実」を相手国に伝えることを模索している。19年に電子書籍「日中文談: 在日中国人の日本観(エッセイ)」を出版。20年8月から23年7月までの3年間、日中文化比較のメルマガ「黄文葦の日中楽話」を発行。24年10月、「新中国語から中国の『真実』を見る」(風人社)を出版。

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