「潜水艦の定員削減」でそっと忍び寄る危機 技術の継承が後回しにされている

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今、潜水艦でのこの問題は、当直を終えた先輩が後輩の当直時間に一緒に勤務について、さまざまなことを伝えるという方法で処理しています。言うなれば先輩達の自己犠牲の上に成り立っているのです。しかし、このようなやり方を長期にわたって実施し続けることは困難でしょう。

「余白」の効用を忘れると危険が忍び寄る

技術の伝承は、ある程度の「人的ゆとり」がなければ、なかなかできません。人のゆとりは、何もないときには無駄なように見えます。しかし、私たちは余白の効用を、もう一度見つめてみる必要があるのではないでしょうか。

書道家である武田双雲氏の書を拝見すると、墨跡も素晴らしいのですが、余白との絶妙なバランスが書を引き立てているように感じます。もし余白がなければ、おそらく味わいのないものになるのではないでしょうか。

皆さんは、道路の路肩をご存じでしょう。路肩は道路構造令という法令に定められていて、「道路の主要構造部を保護し、又は車道の効用を保つために、車道、歩道、自転車道又は自転車歩行者道に接続して設けられる帯状の道路の部分」と定義されています。言葉を換えれば、道路が道路として機能するために設けられた「余白」の部分なのです。余白は無駄だとして路肩を削ってしまうと、道路の効用は失われてしまいます。

組織の運営に必要な経費の中で、人件費が大きな比重を占めることは理解できます。経費を節減しようとしたとき、最初に削られるもののひとつが人件費でしょう。これは潜水艦でも同じです。ある意味、自動化は人員削減と対になってきたと言っても過言ではありません。

とはいえ、現在の自動化の技術は、残念ながらまだ中途半端なレベルにしかないのではないでしょうか。先ほどの操舵にしても、予測制御技術は人が介在して乗組員の技能でカバーしなければならないレベルに過ぎません。

合理化という美名のもとで人員を削減し過ぎると、組織の人的構成の余白の部分を失い、組織がうまく機能しなくなるのではないでしょうか。それぞれの組織に蓄積された、マニュアルなどでは表しきれない技術やノウハウが継承されなくなる恐れがあるからです。

トヨタ自動車は、オートメーション・ラインの一部を人間に戻したと聞いています。財布の中だけをのぞいていたのでは見落としてしまいがちな、大切な問題ではないかと考えています。

山内 敏秀 太平洋技術監理有限責任事業組合理事首席アナリスト

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1948年、兵庫県生まれ。1970年、防衛大学校(第14期)卒業(基礎工学1専攻)。海上自衛隊入隊。1982年、海上自衛隊幹部学校指揮幕僚課程学生。1988年、潜水艦「せとしお」艦長。1996年、青山学院大学大学院国際政治経済学研究科修了。2000年、防衛大学校国防論教育室教授。2004年海上自衛隊退官。現在は、太平洋技術監理有限責任事業組合理事(安全保障担当)、首席アナリスト。主な著書は『軍事学入門』(かや書房、共著)、『潜航』(かや書房)、『中国の海上権力』(創土社、編著)

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