「潜水艦の定員削減」でそっと忍び寄る危機 技術の継承が後回しにされている

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かつて水雷科員は、水上航走中に艦橋での見張り員、操舵員、発射管室の警戒員という3つの配置をローテーションし、水中では第1スタンド(通常、潜舵と縦舵を受け持つ操舵員)と第2スタンド(横舵を受け持つ操舵員)および、発射管室の警戒員を順番に交代しながらこなしてきました。

先輩が近くにいないと技の「ツボ」を盗めない

大切なのは、この第1スタンドと第2スタンドにそれぞれ1名の水雷科員が配置され、先輩から後輩へ、さまざまなことが伝えられてきたということです。たとえば、荒天の中でスノーケルを実施する場合、潜水艦の深度を維持することは大変なことです。自然の力によって、操舵を誤ると潜水艦が海面に打ち上げられてしまったり、危険な状況に陥ってしまったりすることも考えられます。

「ゆうしお」型潜水艦「あきしお」のジョイスティック・パネル。向かって右が縦舵と潜舵を操舵する第1スタンド、左が横舵を操舵する第2スタンド (撮影協力:海上自衛隊呉地方総監部)

このとき重要なのが、縦舵と潜舵を受け持つ第1スタンド員と横舵を受け持つ第2スタンド員の、それぞれの練度と連携です。

拙著『潜水艦の戦う技術』(サイエンス・アイ新書)でも少し触れましたが、操舵は、潜水艦の動きからその次を予測して先手を打つように行います。この「先を読む力」は、経験の積み重ねの中で育っていくのですが、先輩からの伝承が大きな役割を果たします。

若い隊員が第2スタンドに座ったときは、「第1スタンドに座っている先輩はどのように潜舵を操作しているのか。そのとき、横舵をどのように操舵すればよいのか」を感じ取って身につけます。逆に、若い隊員が第1スタンドに座ったときは、自分の潜舵の取り方に対して「(第2スタンドの)先輩は、どのように横舵を操舵してくるのか」を感じ取って身につけます。それは、教科書にも、マニュアルにも書かれていないものです。言うなれば操舵の「ツボ」を感じ取って身につけていくのです。

「ゆうしお」型潜水艦「あきしお」の縦舵と横舵(撮影協力:海上自衛隊呉地方総監部)

もちろん、ときには言葉で指示が出されたり、指導されたりする場合もあるのでしょうが、多くは、目の前で動く舵角指示器の針の動きや、視野の片隅で捉えている先輩の動作から感じ取り、身につけていくことなのです。このことは、水雷科員だけでなく、水測員でも、ディーゼル・エンジンなどを取り扱う内燃員でも、電池やメインのモーターを担当する電機員でも、食事をつくる給養員でも同じです。

しかし、「そうりゅう」型潜水艦では、潜航中、潜舵、横舵、縦舵のすべてを1人の水雷科員が操舵します。したがって、そこは自学研鑽の場となります。それはそれで大切なことなのですが、経験の積み重ねには多くの時間が必要になり、彼の練度の向上には時間がかかります。

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