《うさぎの島》はかつて「地図から消された島」だった。戦後80年、絵本『うさぎのしま』が描く戦争の記憶と環境問題。広島県・大久野島
お父さんとお母さんにも、お父さんとお母さんがいます。それはどこまでもさかのぼることができます。
そんな長い長い時間の中で起こった多くのできごとや考え方の歴史は、語りや絵や文字によって伝えられ、私たちの知恵となって現代に受け継がれています。
絵本『うさぎのしま』誕生の背景
絵本『うさぎのしま』の制作は、作者の一人である近藤えりさんが「うさぎの島」と呼ばれる大久野島と出会い、そこが第二次世界大戦中、毒ガス製造の島だったという事実を知ったことから始まりました。

近藤さんは取材のために何度も島に通い、ついには住み込みまでして土地や歴史を調べ、たくさんの協力者を得るに至りました。その情熱のすべてが、この絵本に結晶しています。
戦時中、毒ガスの効き目を確かめるために、「日本白色種」という家畜の白ウサギが実験動物としてこの島に集められ、毒ガスを浴びて死んでいきました。

私は制作協力のため、2023年の秋に初めて大久野島を訪れ、そこで目にした白ウサギから即座に過去の実験動物を連想しました。
私たちの数世代前の人々は、だれもが太平洋戦争を経験しています。さらに歴史をさかのぼると、世界中で延々と人々の殺し合いが続いてきたことを知ります。私たちは、そうした歴史を生き抜いた人々の血を受け継いでここにいます。
戦争は繰り返し起こっています。なぜ殺し合いが起こるのか、なぜ敵が現れ、憎しみが生まれるのか。なぜ戦争がなくならないのか。
戦争をなくしたいならば、その時代ごとにすべての人が自分のこととして悩み、考え続けるしかないのです。
