「起業の夢絶たれ…」ブラック企業を転々し不本意派遣も。貧困の沼から這い上がれない大学院出身53歳男性のリアル

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「新卒のときに就職活動をあきらめずに、もっとやっておけばよかったという気持ちはあります。でも、あのころは右肩下がりの景気がそこまで長く続くとは思いませんでした。すべてを自己責任と言われてしまうと、つらいです」

老後、受け取れる年金は月7万円ほど。国民年金の未納期間に加え、直接雇用で社会保険に加入させない会社もあった。派遣時代の社会保険未加入の影響も小さくない。

年金は生活保護を少し下回る水準だが、タカシさんは「生活保護は受けたくない」。理由は、金銭援助などができるかどうか、親族に尋ねる扶養照会をされるからだという。

「親族には知られたくない」という申請者の弱みに付け込み、一部の自治体で、生活保護の利用を断念させるために、不必要な扶養照会が横行してきたのは事実だ。

厚生労働省は照会不要なケースを周知するなどしているが、どこまで浸透したかは不明。いずれにしても、就職氷河期世代の無年金、低年金の問題は今後深刻な社会問題となっていくだろう。

高卒で就職した同級生との格差

就職氷河期といわれるなかでも、タカシさんの世代は高校卒業時、まだバブル景気のさなかだった。なかには高卒で大手企業に就職した同級生もいる。同窓会で再会し、家を買った、家族旅行をしたという話を聞くと、「複雑な気持ちになる」とタカシさんは打ち明ける。

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ひるがえって「空前の売り手市場」ともいわれる最近の若い世代はどうか。先日、親戚の子どもから結婚式の招待状が届いた。子どもと思っていたが、いつのまにかタカシさんがいまだ手に入れることができない安定した仕事を手に入れたようだ。

最近、状態が悪化した母親が施設に入居し、タカシさんは再び仕事を探し始めた。往時とは比べ物にならない好条件の求人が増えていることに驚く一方で、年齢を考えると採用されるかどうか――。恵まれた時代のはざまで生きざるを得なかった自分にこう言い聞かせる。

「運が悪かったと思うしかない。野垂れ死ぬまで働くしかない」

本連載「大人の貧困 『雇用の谷間』でもがくミドルエイジ」では、生活苦に陥った就職氷河期世代(40代~50代半ば)の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。
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藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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