作家の桐野夏生氏が喝破「夫婦同姓は理不尽なシステム」、選択的夫婦別姓が実現しないのは「国が家族を規定するという非合理な考えがある」

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「名前が変わるのは人格権の問題」と桐野夏生氏は問題視する(撮影:梅谷秀司)
過酷な状況に直面する女性たちの苦悩と怒りを描き、現代社会の不条理と構造問題を浮かび上がらせてきた作家の桐野夏生氏。
代表作の1つ『OUT』では、深夜の弁当工場で働くパート仲間の夫の死体をバラバラにする女性たちを描き、近年は『燕は戻ってこない』で困窮を極める中で代理母の仕事を引き受ける派遣社員、『オパールの炎』では1970年代にピル解禁運動の先頭に立っていた女性と、生殖に関する女性の自己決定権というテーマにも踏み込んでいる。
日本では夫婦同姓が法律で義務付けられている。結婚した夫婦の95%で女性が改姓をしている現状は、社会による女性の抑圧の問題につながっている。選択的夫婦別姓の議論が30年近くも進まないことで、女性を中心に望まない改姓を受け入れざるをえなくさせている社会構造をどう見ているのか、桐野氏に聞いた。

背景に家父長制の残滓

――国会では28年ぶりに選択的夫婦別姓を導入する法案が審議されたものの、結局は採決まで至りませんでした。

なぜ審議が滞っているのか不思議です。名前が変わるのは人格権の問題で、女性の権利が侵害されているということです。旧姓で働き続けている女性がたくさんいて、不都合なことが起きているのだから、通称使用の拡大でごまかしてはいけないと思います。

保守系政治団体などが、選択的夫婦別姓が導入されれば古い家族制度が壊れると言って反対していますが、なぜそこまで固執しているのか、こだわりの正体が見えません。その主張の背景には、強固な家父長制の維持があります。でも、家族の形態は今、崩れつつあります。

――夫婦別姓に対するご自身の関心の契機は。

自分が結婚したときです。50年ほど前のことで、当然のように夫の姓に変えることになりましたが、夫に「(本名の)あなたはいなくなった」と言われて、すごく嫌な気持ちになったのを覚えています。完全に別の家の人間になったように扱われることも嫌でした。

私の旧姓も、私の母が譲ったからこその姓です。そうやって女たちが譲ってきたのだから、不快だけれども仕方がないのかなという感覚もありました。でも、夫婦同姓は近代に作られた戸籍制度に由来しています。根は家父長制です。

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