作家の桐野夏生氏が喝破「夫婦同姓は理不尽なシステム」、選択的夫婦別姓が実現しないのは「国が家族を規定するという非合理な考えがある」

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――東洋経済読者へのアンケートでも、どちらが改姓するかについて話し合いをせず、女性が改姓したという回答が大多数を占めました。女性からは、受け入れるしかなかったという回答も多くありました(参考記事)。

受け入れるしかないって嫌な言葉ですね。重い病気とか、受け入れるしかないことは確かにありますが、理不尽なシステムを受け入れる必要はありません。そこは分けて考えるべきです。

女性たちはもっと主張したほうがいいと思います。「自分だけが名前を変えるのは嫌だ」と。理不尽に対して「なんで私だけが」と敏感になることは重要です。違和感から世界が変わって見えるはずですから。ハラスメントだって、誰も言わないからと思って我慢した人は多かったでしょうが、ようやく時代が変わってきました。

きりの・なつお 1998年『OUT』で日本推理作家協会賞、1999年『柔らかな頬』で直木賞、2003年『グロテスク』で泉鏡花文学賞、2004年『残虐記』で柴田錬三郎賞、2008年『東京島』で谷崎潤一郎賞、2010、2011年に『ナニカアル』で島清恋愛文学賞と読売文学賞など受賞。2023年『燕は戻ってこない』で毎日芸術賞、同作で吉川英治文学賞を受賞。ほか著書多数。2021年に日本ペンクラブ会長に就任(撮影:梅谷秀司)

この国は女の人をいろんな風に使ってきた

――選択的夫婦別姓が実現しない社会構造をどう見ますか。

問題が解決しない大きな要因は、家父長制が色濃く残っていることです。だから、性別役割分担意識も根強い。その根幹は天皇制でしょう。保守的な団体は女性天皇も女系天皇も認めず、男系しか認めていない。

私が『OUT』を書いたとき、若い編集者に「おばさんにも、それぞれドラマがあるんですね」と言われて驚いたことがあります。結婚したら相手の家に吸い込まれ、ただの主婦で誰かの母親、世間的には名もないおばさんにされてしまう。

女性は夫ではなく家に嫁ぎ、婚家の構成員になる。そこでは性別役割が重くのしかかり、家事育児介護は女の仕事。さらに今は外で働けと言われる。母親の責任も重いですから、もし子どもに何かあったりすると、母親が罰せられるような風潮がある。父親にも半分責任があるのに、あまり聞かないのはどうしてでしょう。

――今の日本の社会保障制度では、事実婚では子どもをもうけたときの法的保護が届きにくいです。

絶対不利になっていますね。LGBTQの方もそうでしょうし、多様性と言いながら本当に家の問題はなかなか私たちを解き放ってはくれない。女性の非正規労働も多いし、正規でも給料は男性の7割程度。出世もできない。それが日本社会のシステムになっているので、なかなか壊れません。

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