体外離脱、光のトンネル、人生の記憶がよみがえる現象、三途の川……。臨死体験の研究が哲学的な議論を巻き起こす

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手術中、彼女の脳波は1時間ほど止まっていたことが確認された。目をさましたパム・レイノルズは、自分が臨死体験をしたと主張し、隣で手術を見守っていたと言った。その根拠として彼女は、手術の過程と医者らの会話、手術用機器の形を正確に描写した。

脳波が停止した女性の手術の正確な記憶

このケースについては、現在も議論がつづいている。手術記録によると彼女の目には乾燥を防ぐためのテープが貼られていたし、聴覚保護のために耳には特殊な効果音が流れるイヤホンをつけていた。だから術中覚醒をしていたとしても、場面や会話を覚えることは不可能だろうといわれている。

臨死体験に関する議論は、2つの哲学的な考え方にもとづいている。それは、精神や魂というものが物質とは別の独立的な存在なのかを認めるか、認めないかだ。

精神を独立した存在として認める「物心二元論」では、臨死体験は身体の死後の精神的な経験だとみなす。記憶と認知活動は、脳という物だけでなく、それとは別の存在である精神によって行われることも可能だと考えるからだ。

一方で、精神を物に還元して物の存在だけですべてを説明する「物心一元論」の観点から見ると、臨死体験は脳の異常そのものであって、脳の能力を超える記憶や認知活動は不可能なことだ。

研究がはじまったのは比較的最近だから、これからさらに深い議論がされるのではないだろうか。

また、臨死体験が実在するものだと考える側もそうでない側も、死の直前に脳が特殊な経験をするということは事実として認めている。

臨死体験をした人は、第三者には理解できない主観的な経験をしているのだ。

チェ・ソンホ 作家

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ちぇ・そんほ / Chae Sungho

1981年生まれ。作家。成均館大学哲学科卒業。学生時代から文学、哲学、宗教、西洋美術、物理学など多様なジャンルに没頭。「チェ社長」名義で執筆した『全人類の教養大全』シリーズは2014年に刊行されるやいなやトリプルミリオンを達成。2015年には国内著者別売上トップを記録。以来、ベストセラーの座が揺るがない驚異の作品である。自身のポッドキャストは2億ダウンロードをゆうに超え、テレビなどのメディア出演多数。読者に望むことは、社会と人生のしくみを理解し、人とのコミュニケーションをよりよいものにしてもらうこと。

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