大学キャリアセンターのぶっちゃけ話 沢田健太著
これまでにも新卒就職を論じる書物はたくさんあるが、データを駆使するものが多く、現場の事実に基づくものは少なかった。本書はキャリアセンターのベテラン職員が執筆し、いま思うところを「ぶっちゃけ」ており、異色である。
第1章「キャリアセンターの事情」では、歴史と現状が語られている。キャリアセンター改組(設立)年表があり、1999年に立命館大学に始まり、2007年までにキャリアセンターとして改組した有名大学が紹介されている。関連する動きとして、2000年の頃からリクナビが就活市場で巨大シェアを獲得したこと、2003年の教育GPスタート、2004年に楽天が「みん就」を買収、2005年頃までの就職氷河期などの事項も紹介されている。
改名して起こった弊害の一つは、キャリア形成支援を外部の業者に依頼することが多くなり、「行き過ぎた適応主義」に陥ったことだと著者は指摘している。その内容は、行き過ぎた心理主義、行き過ぎた態度主義、行き過ぎた能力主義の3つに分けられる。
心理主義は「あなたらしさは何?」「やりたいことは何?」という自分探しだ。確かに過度な自己分析は有害だろう。態度主義は、やたらに細かいマナー講座をイメージすればいい。身だしなみ、お辞儀、声の出し方、敬語と細かく指導する。能力主義は、コミュニケーション能力や社会人基礎力の偏重だ。
社会人基礎力は経産省が定義した能力で「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つが核になる力だ。多くの企業とキャリアセンターが社会人基礎力を重視しており、就活指導の定番になっているが、著者は批判的だ。
こういう「~力」重視の風潮に対し「はてさてどうしたもんだろう」と疑問を投げかけ、「なんにせよ造語の「~力」は言葉遊びの域を出ない。そして、必要が叫ばれるほどにマニュアルが作成されて、その途端に能力主義は形骸化する」と書き、「努力は大事だ。気力で乗り切れ。いまこそ団結力を見せるときだ。それでいいじゃないか。私はそう思う」と主張する。
私も昔から使われてきた「努力」「気力「団結力」でいいと思う。だれもが知っている言葉で指導した方が、学生の理解が早いのではないか。
「行き過ぎた適応主義」は企業側にもあり、著者は「人事マンの急速な若返り」現象を上げている。若返った理由は、宣伝効果。若手が活躍できる会社というイメージづくり。会社説明会や筆記試験で、若手人事マンが爽やかで親切な学生対応の陣頭指揮をとる。