生成AI活用の最前線で起きていることとは?「アメリカの大手企業では業務プロセスの中核に組み込まれる事例が増えている」

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モルガン・スタンレーでAI関連企業を統括しているシャーン・テハル氏(左)と筆者(写真:筆者提供)
これまでインターネット、クラウド、モバイルといった新しいテクノロジーが登場するたびに、必ず一定数の慎重派や導入に二の足を踏む層が存在してきた。技術そのものに懐疑的な見方をする者もいれば、自社の業務との親和性に不安を抱き、動き出せない企業も多かった。
しかし、生成AIに関しては様相が異なる。多くの企業が「この技術の進化は不可逆である」と認識しており、導入の是非を問う段階はすでに過ぎつつある。筆者もこれまで数多くの技術変革を現場で見てきたが、「迷いの少なさ」という点において、生成AIは過去のいかなる技術とも異なる印象を受けている。
実際、日本企業も決して出遅れているわけではない。大手企業を中心にオープンAIの「ChatGPT」やアンソロピックの「Claude」、グーグルの「Gemini」といった生成AIツールの法人ライセンス導入が進み、社内ルールや利用ガイドラインの整備、導入研修も活発化している。「まずは触れてみよう」という初期段階の姿勢に関しては、むしろクラウド普及期よりも積極的である。
他方で、次の壁も見え始めている。それは「どこまで投資すべきか」「投資対効果をどう判断すべきか」という経営的な課題である。PoC(概念実証)までは前向きだった企業が、全社展開に進む段階で慎重になる傾向があり、現場と経営層の温度差が拡がる兆しも見え始めている。
こうした状況を踏まえ、筆者はモルガン・スタンレーでAI関連企業を統括しているシャーン・テハル氏を東京に招き、アメリカの最新の状況について意見を交わした。テハル氏と出会ったのは、著者が先進的な海外SaaS企業を発掘するために頻繁にアメリカを訪れる中で、現地のカンファレンスに参加していたときのことである。
テハル氏は、名だたる生成AI関連企業を担当し、各社のCEOとの対談を次々とこなす姿が印象的であり、その深い知見をぜひ日本の皆様にも届けたいと考え、日本に招いた。本稿では、その対話を通じて得た示唆をもとに、日本企業が今後取るべき「次の一手」を提示したい。

AIは業務の中に溶け込み始めている

テハル氏によれば、アメリカではすでに「AIを使うこと」そのものから「業務にどう組み込むか」へと議論の重心が移っているという。

シャーン・テハル(Shaan Tehal)/Morgan Stanley Head of US AI, Software, and Fintech Investment Banking。オックスフォード大学マグダレン・カレッジにて哲学・政治・経済(PPE)を専攻し卒業。モルガン・スタンレーにて10年以上にわたり、変革をもたらす企業への助言を行ってきた経験を持つ。これまでロンドン、ニューヨーク、カリフォルニア州メンロパークのモルガン・スタンレーに勤務(写真:筆者提供)

「アメリカのテック企業では、生成AIの本番運用が進み、単なるチャットボットではなく、業務プロセスの中核に組み込まれる事例が増えている」(テハル氏)

実例をあげよう。たとえば、税務・会計ソフトの大手として知られるインテュイット(Intuit)では、生成AI大手のアンソロピックの大規模言語モデル「Claude」をベースに確定申告を支援するAIエージェントを実装。従来はオペレーターが行っていたナビゲーション業務を代替している。

また、中古車マーケットプレイスを運営するコックス・オートモーティブ(Cox Automotive)では、数百万件に及ぶ車両の仕様データをAIが解釈し販促用の文章を自動生成するシステムを構築し、営業部門の生産性向上と顧客体験の質的向上を実現している。

「人手で時間をかけて行っていたが創造性を必要としない業務については、生成AIが代替する領域がすでに明確化されている」(テハル氏)

これらの企業では、単にツールとしてAIを使っているのではなく、AIが業務そのものの構造の一部に組み込まれている。PoCではなく、本番環境での実装という段階に入っており、KPI(重要業績評価指標)の見直しや業務設計そのものの再定義も行われている。つまり、生成AIは「新しいソフトウェア」ではなく、「新しい労働力」として捉えられているのである。

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