台湾に来た中国人配偶者「陸配」がなぜ台湾の政治的問題として浮上したのか、その歴史と現政権の思惑、そして移民・人権問題(前)

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彼女は、自身が陸配であるだけでなく、台湾の多くの陸配にインタビューしている。外国人や台湾人がインタビューするのとは違って、同じ陸配の彼女には、陸配たちの多くの本音が語られているはずだ。

上官乱さんは、台湾に来て4年。比較的、新しい台湾への移民だ。中国・四川省成都市に生まれ、中国の大学でメディア学を学んで卒業後はメディアで仕事をし、後にフリーランスに転じる。人権に強い関心を持つ作家として社会運動を多く取材し、当局から呼び出されたこともある。

上官乱さんは中国にいたとき、社会的マイノリティーに対する関心を持っていた。そのため、同性婚を法制化した台湾に関心を持った。台湾人と同様、「台湾は自由と民主のある社会だ」と感じていた1人だった。

「私たちの世代が育ったのは、中国が最も自由主義だった胡錦涛・国家主席(在任2003~2013年)の時代です。当時、中国国内で多くのメディアも登場しました。ですから、自由化や民主化に関心を持っていました。そして、中国人の民主主義のモデルとしての台湾に対して敬意を持つと同時に、中国に対しては批判的でした」

「台湾は中国人にとって民主主義のモデル」

上官乱さんは2015年に初めて台湾を訪れ、台湾の歴史や文化に関する見聞を中国で紹介し、2017年にそれをまとめた本を中国で出版した。そのことで、中国にいるたくさんの台湾人と知り合った。

そのときに知り合った1人が、上海市で働いていた今の夫だった。夫はもともと中国で旅行業に就いていたがコロナ禍で仕事ができなくなり、台湾に帰った。そのため、彼女も台湾にやって来た。

「台湾に来ると、台湾のメディアから取材を受けるようになりました。私が話すことは中国にいたときと同じで、中国の政府に対し批判的な発言をしました。思いもよらず、これが台湾で大いに歓迎されました。大陸出身なのにこれほど中国を批判する人は珍しいというわけです。民進党(民主進歩党、現在の与党)の議員もしばしば訪ねてきて、党活動に招待されたりしました」

ところが、ある発言で状況が一変する。

「私が陸配のために『台湾の法律が陸配にとって不公平だ』と語り始めると、それまで私を持ち上げていた人がすべて、態度を180度変えました。台湾で陸配は、中国の政府を批判できるが、台湾を批判してはならない。とくに陸配の人権問題を批判してはならない存在だということです」
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