韓国現地取材で見えてきた!対馬の盗難仏像"返還"が問いかける「文化財をめぐる常識」の非常識

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12年半ぶりに対馬の観音寺にまつられた観世音菩薩坐像(写真:対馬市教育委員会提供)
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5月12日未明、観世音菩薩坐像が対馬に到着し、観音寺に運び込まれた。実に12年半ぶりの帰還。続いて歓迎の法要が営まれた。仏像の帰還に尽力してきた観音寺の田中節孝前住職は「感慨深い。(仏像が)ここにいることがとても自然で、不思議な気持ちもします」と話した。

韓国中部にある浮石寺での100日の法要を終え、田中前住職に引き渡されたのは5月10日だった。この日、浮石寺がある瑞山市には濃い霧雨が降っていた。

浮石寺は市の中心部から車で30分ほど離れた小高い場所にある。浮石寺への細い道を上がれば上がるほど対向車が見えないくらいの深い霧が立ちこめ、仏像の運搬にも支障が出るのではないかと心配された。

浮石寺で行われた引き渡しの法要には、韓国曹渓宗の関係者や瑞山市の市長、浮石寺の信徒、そして日韓双方のメディアも集まり、本堂は人でいっぱいになった。中に入れず、霧雨に濡れながら法要を見守る信徒もいた。

浮石寺の円牛住職は送辞の際、日本へ引き渡すことへの諦めきれない感情をにじませながらも、100日の法要を受け入れてくれた観音寺の田中前住職へ感謝の意を表した。また、「対馬や長崎県と円満な交流関係をし、交流展示会も行い、互いが協力して文化財の価値を生かす、世界的模範になりたいと思っている」と話した。

法要後、田中前住職は円牛住職へ歩み寄り、手を差し伸べ、握手を求めた。しばらくすると、今度は浮石寺の信徒の女性が田中前住職のもとにやって来て、「仏像をお願いします」と涙ながらに手を取った。

12年半も韓国に留め置かれたワケ

観音寺から観世音菩薩坐像が盗まれたのは、12年半前の2012年10月8日だった。翌年には韓国で窃盗犯が逮捕され、仏像も売買される寸前で回収された。売買されてしまえば、仏像は闇に消えてしまう。その一歩前での快挙のはず、だった。

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