米国では部下を褒めずに叱れば管理職失格 あなたは異文化を理解していますか

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私も個人的にたくさんの経験があり、大きく頷いてしまった一例を挙げてみよう。かつて、『「NO」と言える日本人』という本が出版されたことがあったが、その題名が暗示する程に、日本人は表立って反論したり否定したりするのが苦手だと考えられている。その一方でアメリカ人は、何でもはっきりと口に出して主張する、と思われがちだ。果たしてそれは本当だろうか?

アメリカ人上司の言葉の真意は?

アメリカ人の上司から、

「この資料はとてもいいよ。君は本当によくやった。君には感謝している。後はここのグラフがもう少し見やすいといいんだけどな」

と言われたら、何と思うだろうか。

日本なら、「すごく褒められた。よかった!」と考えてしまいがちだが、本当のところアメリカ人の上司が言いたいことは最後の一文だけだ。「ここのグラフがもう少し見やすいといいんだけどな」とは、「なんてことだ。このグラフはいますぐ修正しないとダメだ」という意味だととらえても、言い過ぎではない。それに先立つ3つの文は飾りに過ぎない。

逆の立場で、部下が仕上げてきた資料に修正を求める際、あなたなら何と言うだろうか? 「ここ間違っているから直しておいて」などとぶっきらぼうに言おうものなら、あなたはアメリカ人の部下から「感情的で思いやりがなく、非プロフェッショナルな最悪の上司」の烙印を押されるだろう。

アメリカのビジネスの場では、上司が部下に対して、あるいは議論の場で同僚に対して、表立ってネガティブなフィードバックを口に出すのは、実は大変に失礼な態度だと思われるのが常識だ。アメリカ人の上司が部下にダメ出しをする際、まずは部下のよいところを3つ挙げ、相手を十分に褒めてから、ネガティブな内容に入る、というのが常套手段である。そしてネガティブな意見の内容も、非常にソフトでオブラートに包んだ言い方をしなければならない。

反対意見を伝えるのに、アメリカ人も苦労している?(写真:leeser / PIXTA)

議論の場では、相手の意見に反論するとき、日本なら「それは違うよ!」などとついつい直接的に言ってしまいがちだが、アメリカのホワイトカラーの仕事の現場ではそれは御法度だ。「あなたの言っていることには一理あり、たとえばこの部分は賛成できる。そして私としては、こういう考え方もあると思っている」などと、相手の良いところをまず挙げながら、回りくどく反論しなければならない。

少なくとも反対意見を述べるシチュエーションにおいては、日本の方が遥かに直接的で、ときには直情的な文化を持っている。だからこそ安保法制の際など、日本人は冷静な議論ができない、などとついつい思ってしまったのだが。

グローバル企業における異文化マネジメントのプロである『異文化理解力』の著者は、こういった文化的な差異が誤解を生み出す例を大量に挙げた上で、誤解を解消しながら多様性のあるチームでうまく仕事をしていく方法を豊富に提供する。日本文化の例も多く出ており、日頃私たちが常識だと考えている慣習が、他の文化ではいかに異質なものとして捉えられるのかがわかり、思わずショックを受けるだろう。

次ページ文化的な差異が大きな影響をもつ8つの指標
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