"廃墟寸前"劣悪な状態で放置された文化住宅、今や人が集まる場所に再生されたミラクル。改修費用は新築以上、それでも壊さなかったのはなぜ?

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マルシェの様子
建物内でもアトリエを出している人たちなどが作品を販売(写真:オルガワークス提供)

費用をかけてもその場が長く価値を維持し続けるのであれば回収はできる。小川さんたちはそのために日々地道な努力を続けており、その長期的な視点からすれば新築以上に費用を投じた廃屋再生は決して狂った行動ではない。

スケルトンにした改修
スケルトンにした改修時の写真。それほど立派な梁、柱が使われていたわけではない(写真:オルガワークス提供)

それに古いものを壊さず、使い続けていることで地域、社会で得た信用という見えない価値もある。

「建物には土地の人たちの記憶がやどっています。住んだ人、通りかかった人も含めれば何千人もの記憶があり、それを残したことで周囲の人たちからは感謝されました。また、ここをやったことで会社の価値、評価も上がりました。そこにも大きな意味があると思います」

時として地元から反対が出ることもある福祉関連の施設を地元との温かい信頼関係の中でスタートできたのはそのため。ビジネスをしている人であればその環境がどれだけプラスかはお分かりいただけよう。

「建てたらおしまい」ではなく

そして、もうひとつ思うのはそもそも小川さんの先代が、小川さんのように建物や居住者に関心を持ち、手を入れ続けていたら小川文化は廃屋にならなかっただろう、ということ。

昭和の時代には建物は建てたらおしまい、維持管理には長年手を入れないというやり方が主流で、誰もがそれを当たり前と思っていた。そして、それが空き家を生んだ。

令和の今、ハードとともにソフトにも手を入れ続けることを前提にした再生をしなければ同じことを繰り返すことになるが、今、空き家再生に取り組んでいる人がどのくらい、その意識を持っているか。

その意識と積み重ねがあれば、フツーの老朽文化住宅でも人を集め、細く長く稼いでくれる場になりうるのである。

【写真】廃墟寸前だった文化住宅、BeforeーAfterでどうなったか(29枚)
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中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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