人口動態をめぐる議論では毎度のことだが、主張に説得力をもたせるためには、大きな数字を挙げることが手っ取り早い。AARPによると、50歳以上の人の支出は世界のGDPを45兆ドル押し上げている。また、アメリカで支出されているお金の内訳を見ると、56%が50歳以上の人たちの支出だ。その支出額は年間8.3兆ドルに上る。これは、世界の国々のGDPランキングで3位に相当する規模の金額である。
同様の潮流は、ほかの国でも見られる。イギリスでは、個人消費の54%(3190億ポンド)を50歳以上の世代が占めており、この割合は2040年には63%(5500億ポンド)に増加する見通しだ。
こうした数々のデータが明らかにしているように、高齢者世代はお荷物どころか、世界で最も規模が大きく、しかも最も急速に成長している「新興マーケット」なのだ。この市場が急成長することで恩恵を受ける業種としては、高齢者への寄り添い、介護、移動の支援、高齢者の自由を奪う病気(認知症など)への対処などに関わる業種を挙げることができる。
高齢の消費者をこのような視点で見ることにより、高齢化社会についてしばしば語られてきた悲観論を是正できる。確かに、高齢者も経済成長に貢献する能力をもっているという点を過小評価するべきでない。
シルバー・エコノミーを超えて
しかし、高齢者を経済成長の原動力とみなす考え方には、いくつか注意すべき点がある。この種のシルバー・エコノミー分析は、高齢化の恩恵を見いだそうとして倒錯した発想に陥っている場合がある。
たとえば、よく引用されるデータのひとつに、2011年以降、日本では赤ちゃん用オムツより成人用オムツのほうが多く売れているというものがある。なるほど、これは大きなビジネスチャンスだ。しかし、このデータを強調するのは、高齢化に対する悲観論の一種のように思える。人々の健康の悪化により金儲けをしようとする姿勢に見えてしまう。私たちは、長寿社会における50歳以上の人たちの消費市場をそのような視点で見たいと本当に思っているだろうか。
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