都内で「トルコ人以外のケバブ屋」がじわり増えている。その理由を日本在住31年・中野の人気店を営む”バングラデシュ人店長”に聞いた
「ケバブ屋はね、ひとりでできる。人件費かからない。もし誰か雇ったらタイヘンね。でもひとりなら赤字にならない。儲からないけど、なんとか生活はできる。あーこんにちはー」
自転車に乗った親子連れと手を振り合う。
「あとね、ケバブ屋はそんなに忙しくない。そんなに暇でもない。そこがいい。仕入れも仕込みもたいへんじゃない」
ケバブ屋というとトルコ人のイメージが強いけれど、そんな理由もあって実はいろんな国の人が参入してきているんだとか。シュワブさんもバングラデシュ人だ。
「ケバブやるバングラデシュ人けっこう多いね。いま日本にはバングラデシュの留学生が増えてるけど、卒業しても日本で就職するの難しい。だからケバブ屋やる。いろんな人にお金借りて、会社つくってビザ取って。私の話を聞いてからケバブ屋はじめた人もいるよ。バングラデシュ人も日本人も、フィリピン人の女の子もいたよ」
確かにいまや、都内ではあちこちにケバブ屋を見るようになった。過当競争ではないかと感じるくらいだ。
「踏切渡った向こうにもあるし、中野ブロードウェイのそばにもある。でもうちの店は美味しいね。だから遠くから来るお客さまもいる」
詳しくは企業秘密だが、多種多様なスパイスやヨーグルト、酢などを使った自慢の味つけだ。それに「一個食べたらパンパンになる」とシュワブさんが胸を張るほどの、すごいボリュームなのである。味と量とで差別化を図り、ケバブ戦線を生き残ってきたのだ。

せっかくだからと注文してみた。ひとつ12キロだという巨大なチキンのカタマリからナイフで肉をこそげ落とし、袋状にしたパンの中に入れていく。その上にキャベツや人参を刻んだサラダを載せて、さらに肉とサラダを押し込む。
肉、サラダ、肉、サラダと重層的に、これでもかとギュウギュウに詰めたケバブサンド600円は、手渡されてみるとズッシリ重い。具材がパンからはみ出しているし、とうていパクつくことはできないサイズなので、割り箸も添えられる。ケチャップやマヨネーズなどでつくられた特製ソースのかかったケバブを箸で食べるのはなんだかふしぎだが、なるほどうまい。
それに、交差点を行き交う人々を眺めながら食べるのは、なかなか気分が良かった。
軒先で遊び回る、バングラデシュと日本の子供たち
シュワブさんが日本にやってきたのは1995年のこと。
「もう31年ね」
60歳になるから、人生の半分をこの国で過ごしてきたことになる。首都ダッカの出身だ。現地の大学を卒業すると、すでに日本で暮らしていた兄を頼って来日。大正大学の大学院に進学した。
その後、兄の営む中古車輸出の仕事を経て、中野にあった時計の卸売りの会社で13年ほど働いた。

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