都内で「トルコ人以外のケバブ屋」がじわり増えている。その理由を日本在住31年・中野の人気店を営む”バングラデシュ人店長”に聞いた

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子供には自分より上にいってほしい

日が暮れる頃に友達たちは帰っていき、ひとしきり遊んだ次男は兄と一緒に店の冷凍庫に手をかけた。大きな肉塊を取り出し、解凍させて、明日の仕込みをするのだ。

「家族みんな一緒。バラバラよくない」

シュワブさんは力説する。

「だから私、土曜日と日曜日、家族で楽しみながら店をやる。子供たちが食べたいものつくって、いろんな話して。あ、ニーハオマ!」

やはり常連だという中国人にあいさつする。先日はまた別の中国人の女性が菓子折りを持ってやってきたのだそうだ。なじみのお客だったが、帰国するからとあいさつに来たのだという。国を越えた近所づきあいが、この交差点にはある。

「時計の会社の社長もときどき来てくれる。元気ですか、商売どうですかってアドバイスしてくれる。私、尊敬するよ、社長88歳よ」

暮らしで困ったことはないか、なにかと気にかけてくれる近所の日本人もいる。シュワブさん自身がふだんから人間関係を大切にしているからこそ、そんな人たちがまわりにいてくれるのだろう。

「私ね、誰とでも話したい。日本語うまくないけど話したい」

そして息子たちには、自分を越えていってほしいと願っている。だから夫婦でけんめいに働き、苦労して長男を大学に行かせた。次男も大学まで進学してもらいたい。

「世の中のお父さんの気持ちみんな同じ。子供たち私より上に、少しでもいいから上になってほしい。でも、口だけでぜんぜん教えないお父さんもいる。私はいつも言ってる。勉強しなさい、うそついてはいけません。人生は短い。だからいまやれることがんばる」

いずれ子供たちが親になったとき、今度は同じように子供に教えてほしい。

「チェーンですよ。回転寿司みたいね」

思いや教育を伝えていくことを、シュワブさんはそうユニークに表現した。

やがて一家は今日の営業を終えて店を閉めると、食材の買い出しに新大久保へ行くのだと車に乗り込み、走り去っていくのだった。

店舗
小さなケバブ屋をどうにかやりくりして、子供を大学卒業まで育て上げた(撮影:筆者)
室橋 裕和 ライター

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むろはし ひろかず / Hirokazu Murohashi

1974年生まれ。週刊誌記者を経てタイに移住。現地発の日本語情報誌に在籍し、10年に渡りタイ及び周辺国を取材する。帰国後はアジア専門のライター、編集者として活動。「アジアに生きる日本人」「日本に生きるアジア人」をテーマとしている。主な著書は『ルポ新大久保』(辰巳出版)、『日本の異国』(晶文社)、『おとなの青春旅行』(講談社現代新書)、『バンコクドリーム Gダイアリー編集部青春記』(イーストプレス)、『海外暮らし最強ナビ・アジア編』(辰巳出版)など。

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