都内で「トルコ人以外のケバブ屋」がじわり増えている。その理由を日本在住31年・中野の人気店を営む”バングラデシュ人店長”に聞いた
しかしコロナ禍のときだ。経営が厳しくなり、社長が高齢だったこともあって、会社を畳むことに。そしてシュワブさんは、すぐ近くで弟が営んでいたケバブ屋を受け継ぐことになった。それからおよそ5年、ずっとこの交差点を見つめてきた。そこを歩く日本人と同じように、景気の波にも揺られる。
「タイヘンなのは食材の値上がりね。キャベツ1個800円とか900円ってときがあったでしょ。肉もスパイスもどんどん高くなってる。でも私、値上げしない。我慢する。だってお客さまの給料も上がってない。給料上がる、大きい会社だけ。そうじゃない会社もいっぱいね。だから値段そのまま。野菜は少し経てば仕入れ値も下がるからね。でも、スパイスは一度値上がりしたらもとに戻らないの」
夏場よりも、人々が温かいものを求める冬のほうが売り上げがいい、だから夏はかき氷も出す、すぐそばにあって地域の名前にもなっている寺院、新井薬師の年4回のお祭りのときはお客で賑わう……そんなことも教えてくれる。

週末は家族も店を手伝う
そして週末は、必ず家族みんなで店を切り盛りするのだ。この日も、シュワブさんが僕と話している傍らで、妻と長男がお客の相手をしていた。小学校1年生のときに日本へ来た長男はベンガル語よりもむしろ日本語で成長し「いまは頭の中でも日本語で考えてますね」と話す。
この春、大学を卒業して大手企業に就職をした。それでも、週末はこうして父のケバブ屋を手伝う。
そんな長男と、母との会話は日本語だ。大手飲食チェーン店でも働く母は独学で日本語を上達させ、パート仲間の日本人のおばちゃんたちとはすっかり仲良しだ。長男の就職には「大きな会社で、なくならないからね」と嬉しそうだ。
そこに小学校6年生の次男が帰ってきた。日本人の友達たちと転がり込むように店の前までワイワイやってきて、キャッチボールをしたり、サッカーをする様子はいかにも遊び盛りの小学生だ。
「ほら、危ないよ!」
お母さんの声も飛ぶ。シュワブさんが楽しげに言う。
「みんな小学校の同級生ね。中学生も交じってるけど」
友達の親御さんたちも店の常連で、よくケバブを買っていってくれるのだという。この子は何年生で、この子はどこそこに住んでいて……とシュワブさんが語る。友達ひとりひとりをちゃんと把握している親が見守る前で、子供たちが駆け回る。なんだか昭和の路地のようだと思った。
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