飯舘村から避難した「母ちゃんたち」の自立への一歩--そごう柏店「までい着」販売会までの足取りを追う

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何とかしなければ。佐野さんの呼びかけに応じて、同じ仮設住宅団地の「母ちゃんたち」は、秋ごろに、全国から寄贈された古着の着物を半てんなどに仕立て直す活動を開始した。そして、ちょうど震災発生から1年に当たる3月10、11日、首都圏の大手百貨店、そごう柏店で製品販売会を開催できる道筋ができた。目標が見え、働くことの喜びと緊張感を、久しぶりに味わえている。

そごうの担当者は、とても熱心に佐野さんの話に耳を傾け、こんな提案までしてくれた。

「もし、太鼓や神楽など村の伝統芸能があれば、百貨店の正面玄関前で披露してみませんか」

佐野さんはうれしくて、心が小躍りした。中学生から主婦まで、十数人で華やかにたたく虎捕太鼓、小学生たちによる花墳太鼓、笛太鼓に合わせて三頭の獅子が踊る三匹獅子舞……。村には、首都圏の人たちに披露したい自慢の芸能がある。

「演技する場がなくて、鬱々としているだろう。みんな、喜ぶに違いない」。佐野さんはそう思った。

販売会に参加する仮設住宅の母ちゃんたちも盛り上がるし、避難以後、別れたきりの人たちと会って喜びを共有できる。村には、「喜びはともに」というコミュニティの精神性が生きているのだ。

佐野さんは、さっそく村の関係者の避難先を調べ、次々に連絡した。「バスを借り切らないといけないな」。うれしい難題に頭を抱えながらも、返事を待っていた。しかし、数日後、電話が相次いだ。受話器の向こうから聞こえてきた返事は、どれも予想外の悲しげな声ばかりだった。

「できないよ」

太鼓、獅子舞は子どもや若者が支えてきたが、そういう年齢層の村民ほど、仕事探しや放射能問題で県外遠くにバラバラに避難してしまったからだ。

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