陸上戦力の必要性を強調するのはそれゆえである。以前の定数18万人、今の定数15万人から1万人でも減らせば日本の防衛はなりたたない、いつもそう言う。ちなみに、日清戦争まで日本陸軍は平時4万から7万人でしかなかった。
政府方針と真逆の増員案をぶつけることもした。これは民主党政権時代ではない。政権交代直前に自民党が陸自の削減と海空への付け替えを検討した際の抵抗である。
そして、なによりも政治力の涵養と発揮である。昔から陸自は国会に出身議員を送り込み、その力で海空傾斜配分を阻止しようとしている。
1980年代から海空重視が高まったが…
本格化は海空重視論が高まる1980年代以降である。鈴木善幸首相、中曽根康弘首相が海空優先の予算編成を指示した。自民党の金丸信幹事長、藤尾正行政調会長が党内で主張し始めた時期である。
それに危機感を抱いた陸自は政治力の増強に努めた。1980年代には職場で後援会加入用紙が回ってきたとの話がある。ノルマは7人であり、公務員の政治的中立性への配慮から「家族が一番問題ないだろう」とのアドバイスつきだったという。
最近でも事情は変わらない様子である。筆者は2010年に自衛隊統合部隊に所属していたが、参議院選挙直前に指揮官の陸上自衛官が「自衛隊のためには誰がよいのか考えて」と朝礼で発言したのを覚えている。海自では「棄権しないように」以外は言わないので驚いたが、陸自隊員によると「いつものこと」だった。
つまりは、防衛費増額は陸自の政治努力が結実した結果なのである。それが、配分比の発表を取りやめた理由でもある。防衛費増額は陸自権益の確保である。それが明らかになると困るのだ。
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