習近平が密かに打ち出したグローバル・ガバナンス・イニシアチブの正体は「アメリカ不在の世界」を想定した新秩序構想

ウクライナが戦禍に見舞われて3年が過ぎた今夏、侵攻を続けるロシアのプーチン大統領のためにレッドカーペットを敷いた国が少なくとも2つあった。アメリカと中国だ。
停戦を実現させると息巻くトランプ米大統領は8月15日、プーチン氏を米アラスカ州に招いた。バイデン前大統領が「戦争犯罪人」とののしったプーチン氏を大統領専用車「ビースト」に乗せる破格の厚遇ぶりだった。
自慢の交渉力でノーベル平和賞級の偉業を達成できると信じているかのようなトランプ氏。だが四半世紀も実権を握るプーチン氏の目は笑いをこらえているように見えた。首脳会談では停戦に向けた合意は得られず、空振りに終わった。
主権国家への武力攻撃という国際秩序を揺るがす事態を引き起こしたにもかかわらず、プーチン氏は一切譲歩することなく、超大国アメリカの首脳に対等に扱われる果実を手にした。会談後、ロシアはウクライナへの攻撃を増加させた。
世界が「中ロ朝」に目を奪われている最中に
その半月後、プーチン氏は抗日戦争勝利80年を記念する軍事パレードに出席するため、北京を訪れた。習近平国家主席とにこやかに談笑しながら、同じように招待された北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記と共にレッドカーペットを歩いた。
それらの指導者たちが赤絨毯を踏みしめる音は、日本では文字通り軍靴の足音に聞こえたかもしれない。他方、ロシアの人々には自国の誇りを守る闘いの偉大な行進として、北朝鮮には核保有国への一歩として、そして中国には新たな社会主義陣営の復興として響いたかもしれない。
中国やロシアは自らが戦後の国際秩序を守る責任ある大国だと自認している。日本を含むいわゆる「西側諸国」の世界観とは相容れないが、アラスカでアメリカがロシアと交わした握手は、アメリカ主導の秩序のほころびを象徴するものだった。
世界が中ロ朝の結束に目を奪われている最中、中国が、密かに米欧に対抗する秩序構築に向けた新ビジョンを打ち出していたことはあまり知られていない。
それは国際秩序の主導権を巡る攻防の新たな幕開けを予感させる内容だった。
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