しかるに「ニクソンショック」は、竜頭蛇尾の結果に終わる。4カ月後の12月18日、ワシントンのスミソニアン博物館に集まったG10の交渉により、「スミソニアン協定」が締結される。為替レートは1ドル=308円となり、ニクソン大統領は追加関税を取り下げる。ただしアメリカ経済は、その後もインフレに苦しむことになる。為替レートもなし崩し的に変動制に移行し、今日に至るもそのままである。
さて、このときにIEEPAが使われた前例があるということは、相互関税のうち「すべての国に対する10%の関税」は、司法の場でも正当化されそうだ。それでは各国別の「上乗せ関税」の部分はどうか。ここは意見が割れるところではないだろうか。いずれにせよ、相互関税に対する今後の司法判断は要注目と言えよう。ゆえに日米交渉もゆるゆると、いや、「のらりくらりと」進めるくらいがちょうどいいのかもしれない。
興味深い2人の「共和党大統領」の「歴史的相似形」
それにしても、ニクソン大統領とトランプ大統領の歴史的相似形は興味深い。半世紀の時を超えた2人の共和党大統領は、①アメリカ経済に悲観的で、②貿易収支の改善を目指し、③ドルの切り下げを志向して、④関税を発動した。さらにニクソン大統領は、FRBに対して金融を緩和しろと、時のアーサー・バーンズ議長に圧力をかけたという。ここまでくると「歴史は繰り返す」、いや「韻を踏む」と言うべきか。
ニクソン大統領は「南部戦略」、トランプ大統領は「ラストベルト」と、共和党の新たな支持層を掘り起こしたという共通点もある。またニクソン大統領が「中国電撃訪問」によってソ連との冷戦を有利に進めようとしたのに対し、トランプ大統領はロシアに接近することで中国を孤立化する「逆キッシンジャー戦略」を狙っているとの観測も絶えない。
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