トランプ関税戦略、路線変更の意味(下):“信念”乏しかった大統領、相互関税騒動は実質的に幕

「製造業を復活させ、雇用を回復する」「外国は自由貿易を利用して不正を行い、アメリカを搾取している」「不正を行っている国に報復関税を課す」――。トランプ大統領は、現在も第1次政権時と同じ過激な主張を繰り返している。国際化を推進したグローバリストを批判し、保護主義的な通商政策を通して、「アメリカを再び偉大な国にする」と有権者に訴える。
だが、第1次政権での「アメリカ・ファースト」の通商政策は失敗に終わった。長期的な製造業の競争力の強化や雇用増どころか、短期的な貿易収支の改善さえ実現できなかった。
通商政策に新味なく、相互関税に活路
当時の政策を振り返ってみる。まず、2017年にグローバリゼーションの象徴的な通商協定である「NAFTA(北米自由貿易協定)」の見直しを始め、2018年に保護主義的な「USMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)」に組み替えた。「米韓自由貿易協定」も見直し、「TPP(環太平洋経済パートナーシップ)」の交渉から離脱した。また、2017年4月に安全保障を理由に鉄鋼に対して25%、アルミニウムに対して10%の輸入関税を課す決定を行った(対象はカナダ、EU、メキシコ、韓国で、カナダとEUは報復関税で応じた)。
さらに、2018年1月にソーラーパネルと洗濯機に30~50%の関税を課すと決定し、同3月には中国が知的所有権を盗んでいると主張、機械などに25%の追加関税を課した(中国は報復関税で応じた)。2019年5月にメキシコに対して不法移民を理由に全輸入品に対して5%の関税を課す決定をしたが、最終的にメキシコ政府が移民制限に応じたことで実施は見送られた。現政権の政策と違うのは日付くらいと思えるほど同じようなことをやっている。
似たような政策で違う効果が期待できるのだろうか。少なくともトランプ大統領に新しい政策構想があるわけではない。選挙運動では「製造業を復活させ、アメリカを再び偉大にする」と有権者に繰り返し訴えていた。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら