トランプ関税戦略、路線変更の意味(下):“信念”乏しかった大統領、相互関税騒動は実質的に幕

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相互関税の恒常化を諦め、交渉の道具としてしまうとどうなるのか。ナバロ上級顧問とミラン委員長の考えはこうだ。アメリカが各国と個別に通商交渉を始めれば、相互関税は国によって廃止されるか、引き下げられるかするだろう。アメリカが外国から譲歩を得たとしても、アメリカを取り巻く全体状況は基本的に変わらない。際限なく通商交渉を繰り返すしかない。仮に自由化がさらに進めば、アメリカの製造業の衰退は避けられない――。

しかし、ここまでの流れを見れば、新奇な案を勇んで採用はしたものの、トランプ大統領に2人ほどの“信念”がなかったことは明らかだ。最終的にトランプ大統領はベッセント財務長官など現実派の主張を受け入れ、各国と通商交渉を行う決断を下した。ナバロ上級顧問も、ミラン委員長も、政策転換を決めたホワイトハウスでの会議に呼ばれることはなかった。それでもナバロ上級顧問は『Fox News』のインタビューで「自分は脇に追いやられたわけではない。私たちは全員、大統領のために仕事をしている」と答えている。

相互関税を触媒とし逆に関税引き下げも

トランプ大統領は執務室で記者団に向かって、「大規模な関税引き上げを部分的に適用猶予することで、より広範な戦略を明らかにした」と語った。「相互関税騒動」は、こうして幕を閉じ、現実的な妥協点を求める通常の通商交渉に変わった。

トランプ大統領は相互関税の適用をちらつかせて、交渉相手国に大きな譲歩を迫るはずだから、いずれの国との交渉も難航するだろう。もしも相手国が関税の引き下げ、非関税障壁の撤廃などを受け入れても、アメリカの製造業の雇用減などは純粋に国内要因によるものなので、トランプ大統領の公約が実現することはないだろう。

ただ、相互関税が触媒のような役割を果たして、通商交渉が新次元に移行する可能性がある。例えば、日本やEUはアメリカに対して工業製品の関税をお互いにゼロにする「ゼロ・フォー・ゼロ関税」を提案している。アメリカの圧力の下、意図せぬ形で世界的な関税の“一括引き下げ”が実現するかもしれない。

中岡 望 ジャーナリスト

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なかおか・のぞむ / Nozomu Nakaoka

国際基督教大学卒業。東京銀行(現三菱UFJ銀行)、東洋経済新報社、米ハーバード大学客員研究員、東洋英和女学院大学教授などを歴任。知米派ジャーナリストとして活躍。

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