成功するテック系スタートアップは、どのように事業を立ち上げ、ビジネスモデルを実現するのか?

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ここにリスク分散のあるべき姿についての非対称性が生まれます。投資家は、当該企業はワンオブゼムだと見なし、複数のスタートアップへの投資によってリスクを分散させます。

個々のスタートアップに対しては、リスクを承知のうえで集中してほしいと考えるのです。しかし起業家は、自分の会社をオンリーワンの存在と見なし、社内の複数の事業を保有することによってリスクを分散しようとするのです。

成長に合わせてビジネスモデルを進化させる

第3に、資金調達に成功したテック系スタートアップの多くが、理想的な順序で自らのビジネスモデルを構想していました。最初は、開発した技術をストレートに活用できるようなモデル、次は継続的な関係によって安定化させるモデル、そして最後はスケールしうるビジネスモデルです。

投資家からすれば、技術開発からソリューション提供までが理想的に結びつけられているように見えます。純粋なサイエンスから商業利用のテクノロジーへの移行を進めることで、投資家をはじめとするステイクホルダーの信頼を勝ち取ることができるのです。しかも、その進化のプロセスに一貫性があるので、期待も膨らみます。

そして、最終的に行き着くビジネスモデルが非常に魅力的です。技術を社会実装するにあたって、製品レベルで止まることなく、より付加価値の高いサービスへと転化させています。領域についても、環境エネルギーなど社会的な価値が高い市場で活躍できるようにビジネスモデルが設計されています。

もし、最初から最後まで一貫して着実なビジネスにとどまるような構想をしていたらどうなるでしょうか。売上の伸びも緩慢なので、投資家たちにも歓迎されません。独自性にも欠如しているので、大企業と戦うことになります。

要は、企業価値が高まるような市場で上場することが大切なのです。成功する起業家は、企業の株価収益率(PER)の平均が高く、実力に見合った株価がつくような領域を選んでいるのです。どのカテゴリーで上場するかを戦略的に考察し、最終的な着地点を定めてビジネスモデルを設計しています。

大企業において、技術の収益化を図るビジネスモデルを創る場合も同じことです。企業価値、ひいては社会的な価値を高めるようなデザインが求められると言えるでしょう。

井上 達彦 早稲田大学商学学術院教授

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いのうえ たつひこ / Tatsuhiko Inoue

1968年兵庫県生まれ。92年横浜国立大学経営学部卒業、97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了、博士(経営学)取得。広島大学社会人大学院マネジメント専攻助教授などを経て、2008年より現職。経済産業研究所(RIETI)ファカルティフェロー、ペンシルベニア大学ウォートンスクール・シニアフェロー、早稲田大学産学官研究推進センター副センター長・インキュベーション推進室長などを歴任。「起業家養成講座Ⅱ」「ビジネスモデル・デザイン」などを担当。主な著書に『ゼロからつくるビジネスモデル』(東洋経済新報社)、『模倣の経営学』『ブラックスワンの経営学』(日経BP社)『テック系スタートアップのビジネスモデル』(東洋経済新報社)などがある。

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