大企業では埋もれるイノベーションが生きる道 スズキ齊藤直樹の模索に「カーブアウト」の光明

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実践の経営学を探究する井上達彦教授が、ディープテックが世界に羽ばたくための要素を探る。スタートアップが持つ技術の芽をいかに育むか。

デザイン思考により開発されたデザインプロト(提供:スズキ)
日本のイノベーションを担うべきは誰か。経済産業省によれば、国内の研究開発の約9割を担っているのは大企業だという。しかし、驚くべきことにその約6割が活用されずに社内で眠っているそうだ。
現場のビジネスパーソンにその理由を問うてみると「社内では量産できない設計となった」「社内が求める安全性には到底及ばない」「売り上げ規模が社内の基準を満たさない」などの理由で、座礁してしまうそうだ。
経産省に出向したスズキ株式会社の齊藤直樹さんは、これを解決する一つの手法として「スタートアップ創出型のカーブアウト」に注目している。カーブアウトとはいわゆる会社分割の一種で、親会社が技術や人材の一部を切り出し、新たなスタートアップとして独立させる制度である。
齊藤さんは、出向期間後にこの制度を社内に持ち込み、その有効性を実証しようとしている。いわば「起業家のための制度を作る起業家」である。今回は、自らの体験談も含めてお話を伺うことができた。

井上:「スタートアップ創出型のカーブアウト」に注目した背景について教えてください。

齊藤: 日本でどのくらいの技術が埋もれているのかという話から始めさせていただきます。経産省の調べでは、この国で約13兆円の研究開発費が投じられているのですが、そのうち約9割が500人以上の従業員を抱える大企業によるものです。

大企業が研究開発を担っている割合は、イギリス、フランス、韓国は7割ぐらいまでに落ちてきていますし、大企業への依存度が高いアメリカやドイツでも8割ぐらいです。日本が一番大きく、9割前後で推移しています。

大企業で消える7.3兆円分の研究開発

ところが、国内の大企業へのアンケート調査では、研究開発後に事業化されない技術の63%が有効活用されず、そのまま消えています。

水面下での検討はされているものは19%、グループ内企業での活用が11%、そしてオープンイノベーションとして実際に他企業で活用されるのが5%、社員・組織のスピンオフが2%にとどまります。

日本の9割の研究開発を担う大企業のうち約6割が事業化されずに埋もれている、つまりイノベーションに結実していない計算です。

井上:そうだとすれば、イノベーションはスタートアップに委ねるという発想があってもいいですね。

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