リコーの「ビジコン」出資先選びではない真の狙い 大企業社員とスタートアップが学び合う共同体

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実践の経営学を探究する井上達彦教授が、ディープテックが世界に羽ばたくための要素を探る。スタートアップが持つ技術の芽をいかに育むか。

リコー国内グループの社員3万人とスタートアップが同じ土俵に(写真:Bloomberg)
日本企業が失われた30年から脱するためのヒントは、「温故知新の経営」にあるかもしれない。
「“はたらく”に歓びを」を企業理念に掲げ、ウェルビーイングを温故知新する会社がある。オフィスオートメーションという言葉を業界で最初に提唱した株式会社リコーである。
創業者の市村清さんは「人を愛し、国を愛し、勤めを愛す(現代的にはグローバル企業として、事業・仕事を通じて、自分、家族、顧客、関係者、社会のすべてを豊かにして、将来世代へ引き継ぐ地球を愛すことを目指した考え方)」という「三愛精神」を掲げ、現在でいう連続起業家として手腕を振るった。
この「三愛精神」に立ち返り、「はたらく歓び」を体現させているのが「TRIBUS」(トライバス)というアクセラレーション(事業成長)プログラムである。事務局の森久泰二郎さんが手腕を振るい、世界にも類を見ないものへと発展させている。

井上:このプログラムが2019年に生まれた背景についてお聞かせいただけますか。

森久: 当時、リコーは複合機を中心としたオフィスプリンティングに加えて、ICT関連のサービス事業を大きく伸ばそうとする時期にありました。そうした中で2017年に山下良則現会長が社長に就任し、会社が大きく変わろうとしていました。

自前主義からの脱却を模索

森久 泰二郎(もりひさ・たいじろう)/宇宙科学研究所にてX線人工衛星「すざく」の開発の後、株式会社リコー入社。複写機制御システム開発、民生用デジタルカメラ開発を経て、産業機器に関する新規事業にプロジェクト・プロダクトマネージャーとして従事。TRIBUSには2019年度に社内起業家として参加し、2020年度にTRIBUSプログラム運営リーダーとして活動。2024年も引き続き事務局として参画(井上研究室撮影)

経営企画部門では、リコーが創業100周年を迎える2036年を見据えて、新しい提供価値、事業の創造や変革が必要だという議論が起こっていました。開発も生産も販売もすべて自分たちで行おうとする過度な自前主義から脱却し、研究開発された技術をサービス化するための、スタートアップとの協業や連携も模索されていました。

社員と役員とが語る場でも「ルールに縛られて、新たな挑戦をする機会が少ない」という声も上がっており、挑戦の場が必要だったんです。

井上:大企業同士の連携ではなく、スタートアップに注目されているのには何か理由があるのでしょうか。

森久:新しい市場領域において挑戦していくという点では、大企業よりもスタートアップが盛んです。 リコーとしては、それまでもスタートアップとコンタクトしていたものの、さらに一歩踏みこんだコミュニケーションを取るチャネルをがなかった。そこで、当時社長だった山下の直轄プロジェクトとしてスタートしました。

井上:TRIBUSの最大の特徴は、社外と社内のプログラムを統合している点です。このような枠組みは珍しいのではないでしょうか。

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