井上:社外のスタートアップについてはどうでしょうか。TRIBUSでは出資しないのですよね。
森久:出資すると、どれだけ投資してそれを超えるリターンを得るかという視点になる。それよりもTRIBUSのプログラムを通じて、そのスタートアップがどれだけ成長できるかという見方を大切にしています。
いくら企業として素晴らしくても、伸びしろが感じられず、実際にプログラムの前後で何も変化がないのであれば、他社のアクセラレーションプログラムに参加したほうがいい。採択は見送らせていただきます。
なお、リコーは2023年にCVC(Corporate Venture Capital)を設立しました。TRIBUS自体には出資機能はありませんが、有望スタートアップの紹介等では連携しています。
井上:「“はたらく”に歓びを」という世界観にマッチしていますね。「三愛精神」に由来するプログラムの理念がとても明確なので、すべての判断に筋が通っていますね。応援しています。
起業の「実践共同体」
経営学者・井上達彦の眼
仕事と遊びを分けるという生活様式が広まっている。尊重すべき世界観ではあるが、唯一最善のスタイルとは言い切れない。その対極は、会社人間となるが、この日本の経営スタイルを温故知新によって別のかたちに再構築すると、Z世代にも通用しうるウェルビーイングも見えてくる。
リコーのTRIBUSが実践しているオープンイノベーションは「“はたらく”に歓びを」を体現している。
TRIBUSコミュニティは、経営学では「実践共同体」と理解される。すなわち「共通の関心や目標を持つメンバーが、知識や経験を共有し、相互に学び合いながら、その共通の関心事に対する実践的なスキルと知識を発展させる社会的なグループ」である。
昔ながらの職人、芸術家、科学者のコミュニティはもちろん、現代の起業家コミュニティもこれに該当する。
これが成立する要件は3つあって、①どのような価値観と目的をもとに活動しているかが理解されていること(協働の感覚)、②参加するメンバーが互いに必要な存在として必要とし合っていること(相互依存の関係)、③実践をうまく進めるためのルールや進め方が共有されていること(レパートリーの共有)である。
このコミュニティでは、教える側と教わる側が入れ替わる。他者の言動が自らの糧となり、自身の言動が他者の糧となる。他者がよきお手本となることもあれば、自身がよきお手本となることもある。昭和の時代の日本企業は、こうして成長してきたし、今の若者にもそのような素養が十分に備わっている。
実践共同体に参加するメンバーは、その活動に熱中する。やらされているのではなく、主体的に取り組む。たとえ「仕事」であっても、それを「労働」として捉えるのではなく「天職」として捉える。このようなコミュニティによって社会問題が解決できるとすれば、Z世代の若者は歓びを感じるのではないだろうか。
過去を全否定するのではなく、将来に向けて残すべきところを見極めることも大切だ。「仕事は遊び」。昭和の時代の名経営者と令和の時代を躍進する起業家に共通するポイントかもしれない。
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