トランプ関税戦略、路線変更の意味(上):「世界経済の作り直し」に乗るが、市場急変で交渉に転換

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ヘッジ・ファンドの経営者で総資産93億ドルを持ち、大統領選挙でトランプ陣営への最大の献金者であったビル・アックマン氏は「関税戦争」を「核戦争」に例えて、「トランプがもっと思慮のある手段を取らなければ、私たちは自分たちが招いた経済的核戦争に向かって進んで行くことになるだろう」と、相互関税を批判している。

トランプ政権の“身内”であるイーロン・マスク氏の「ヨーロッパとアメリカが理想的には関税ゼロに向かって進み、自由貿易ゾーンを作り出すことを願っている」という発言に対し、ナバロ上級顧問は「マスクは状況を理解していない」と反論した。これを受け、マスク氏はナバロ上級顧問に「本当にバカで、レンガ袋より愚かだ(truly a moron and dumber than a sack of bricks)」と反撃している。

「クール」から「神経質」に

それでもトランプ大統領は状況を楽観視していた。4月8日の午前9時37分、自らのSNS「Truth Social」に「クール(格好良い)! 何が起こるか心配することはない。今が(株の)買い時だ(THIS IS A GREAT TIME TO BUY)」と大文字で書き込んでいる。株価の下落は買い場であると国民に訴えたのである。「大きな変革は短期的な苦しみを伴う」というのがトランプ大統領の考えだ。この時点までは強気であった。

その後、ラトニック商務長官にEUがアメリカ製の鉄鋼とアルミニウムに報復関税を課す決定をしたという電話連絡が入った。さらに大豆などへの報復関税も準備中と伝えられた。アメリカの最大の市場であるEUによる報復関税の準備は、トランプ政権にとって大きなショックだった。トランプ大統領の楽観的な見通しは崩れ始めた。

8日の夜、ラトニック商務長官とベッセント財務長官は大統領執務室でトランプ大統領と会い、路線転換を決めた。トランプ大統領は最後まで強気の計画に固執したが、最後は路線変更に同意し、9日の午後に相互関税の90日間の適用延期を発表した。

それから1時間後、トランプ大統領はホワイトハウスのサウス・レーンでの演説で「人々は神経質(yippy)になっている。まだ何も終わっていない。しかし、他の国から非常に大きな支援(spirit)を得た」と語っている。「支援」とは、交渉の申し込みを指すのであろう。さらにトランプ大統領は「私たちは誰もが実現不可能だと思っていた夢を実現しつつある」と続けた。だが、「クール!」から「ヤッピー」への変化が、トランプ大統領の心変わりを明確に示している。

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