村上春樹の名作をオリジナルに改変?《NHKを辞めた監督》が、ドラマ『地震のあとで』を“再びNHKで”撮った理由
第4話まで通して見ると第1話から仕掛けられた記号のリンクをあちこちに発見する楽しみもある。
「第2話に出てくる冷蔵庫は第4話にも登場しますし、第1話に出てくる箱もまた登場します。ほかにも各話で共通して使っている小道具もあるので探してみてほしいです」
画面に凝らされた意匠を隅々まで見る楽しみのある『地震のあとに』。だが最近のドラマではこういう工夫が少なくなっているような気がするという筆者のぼやきに、井上さんは「そうですね」とぷっと吹き出した。
なんでそんなふうに笑うんですか? と聞いたら、「そうだと思います」と肯定してくれて、「そういうことは今、やるのが大変ですから」と付け足した。
NHKを辞めたのに、なぜNHKで制作?
井上はディズニープラスとの共同制作『拾われた男』のあと、長年勤めたNHKを辞めた。その後のテレビドラマ第1作目が、今回の『地震のあとで』。辞めたのになぜまたNHKで? という疑問は誰もが感じることだろう。
「NHKでいい仕事をさせていただいてきて、定年までいても大事にしていただいたかもしれませんけれど、一度、NHKの外に出て可能性を試してみたいと思いました。これからはまったく違うプラットフォームでこれまでとはまったく違う作品も模索していきたいと思っています。
ただ今回は、いろいろなプラットフォームがある中でNHKに企画を持ち込んだのは、こういった題材は、テレビで広く届けたかったからです。『地震のあとに』を作ることができたのはNHKの懐の深さがあったからこそと思います」
先述したように、テレビドラマで、セリフに頼らず画だけで表現したり、解答を出さず画や俳優のたたずまいから、観た人それぞれに感じさせたりするような作り方を選択することは困難であろう。
たぶん、これはNHKだからゆるされた、ぎりぎりの自由な表現だ。『地震のあとで』はNHKを辞めたあとの井上剛の置き土産なのかもしれない。たとえるなら、小さな白い箱であろうか。
そして、結果的に『地震のあとで』は、村上春樹が1995年のことを書き2000年に出版したものが、その先の時代を予言したように感じさせ、村上春樹の普遍性をますます強く印象付けるドラマになった気がするのだ。
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