村上春樹の名作をオリジナルに改変?《NHKを辞めた監督》が、ドラマ『地震のあとで』を“再びNHKで”撮った理由

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また演出の井上剛は「村上さん御本人からではないですが『のびのびやってください』と言われた気がしました。ビビらずにという意味でしょうね、だからのびのびやりました」とプレッシャーを感じさせない発言をした。

山本と、脚本の大江崇允には、映画『ドライブ・マイ・カー』で、村上春樹の短編にほかの作家の戯曲なども加えて完成度の高いものを作った実績がある。また、フランスのアニメーション作家が村上の作品をミックスした『めくらやなぎと眠る女』という作品も世界的な評価を受けている。村上春樹の作品はそれだけ解釈の自由度があるのだ。

村上春樹特有の正解のない物語に、井上が想像力をフル回転させ、言葉にならない心情をイマジネーションあふれる画にしている。限られた予算と時間の中でいかに見る人の心を揺らす画づくりをしたか、放送がはじまってから話を聞いた。

「第1話をご覧いただいた人たちの反応は賛否真っ二つに分かれている印象です。明確なメッセージ性や解答がない物語なので、そのわからないことを面白いという人と、わからないから離脱する人がいることは想定内ではありました。ただ、意外だったのは、画に仕掛けられた暗喩みたいなものを探して考察してくれるかなと思っていたらそうでもなくて(笑)。

こういう取材でも思念的な話になるんですよ。僕としては、観た人の想像を喚起させたいと思っていたんですけどね。観ていたら自然に目的地にたどり着く物語というのではなく、自分で1つひとつ感じながら、自分なりの目的地に乗り継いでいってほしいという思いをこめて。映像に力を持たせるように凝って作りました」

地震のあとで
1995年を描いた第1話の「UFOが釧路に降りる」。主人公を岡田将生(写真左)が演じた(©️NHK)

数々の「震災やコロナ禍を題材にした作品」を制作

井上剛は1993年、NHKに入局。数々のヒットドラマを手掛けてきた。

代表作は、朝ドラことNHK連続テレビ小説『あまちゃん』(2013年度前期)。東日本大震災につながる物語だったが震災からまだ2年後だったため直截的な再現を極力避け、揺れる街をミニチュアで表現したことが話題になった。

遡って2010年、『その街のこども』では阪神・淡路大震災で被災した者の15年後をドキュメンタリーとドラマを融合させて描いた。『地震のあとで』は、『その街のこども』から15年、震災から30年という節目に企画された。

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